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九大理学部ニュース(分野別:化学)

化学光の物理で生物を見る化学の世界

吉村 美波

生細胞や生体組織のはたらきを理解するためには、生きたままの状態を観察することが重要です。そのような観察をする際に、組織内の注目したい物質に対して、蛍光タンパク質などの観察に好都合な物質を結合させることがよく行われます。しかし、他の物質を結合させて標識した状態では、注目したい物質の性質が変わってしまい、本来のふるまいを観察できなくなるかもしれません。そこで、光物理化学研究室 (加納 英明 教授、平松 光太郎 准教授、桶谷 亮介 助教) では、レーザー光を使って、標識物質を使わないラベルフリーな観察手法を用いた研究を行っています。今回は、そのような方法の一つである非線形ラマン分光法で脂肪組織の観察を行っている化学専攻の吉村 美波さんにお話を伺いました。

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化学紫外線を当てるだけのカンタン脱硫術

篠﨑 貴旭

石油は、種々の乗り物の燃料などに使われており、脱炭素化が叫ばれる今日においても、依然として人々の暮らしに欠かせないものとなっています。石油の主成分は炭素原子と水素原子からなる炭化水素ですが、不純物として硫黄原子をもつ化合物なども含まれています。この硫黄分は、燃焼時に硫黄酸化物として排出され、環境や人体に影響を及ぼすだけでなく、ガソリンや軽油を燃料とする自動車の性能を悪化させる要因にもなります。これまで水素化脱硫と呼ばれる大規模な設備を要する方法で、石油中の硫黄分の除去が行われてきました。しかし、大型の設備が必要であるがゆえに、国や地域によっては今なお脱硫が不十分な石油が流通しています。そこで、触媒有機化学研究室 (徳永 信 教授、村山 美乃 准教授、山本 英治 助教) に所属する化学専攻の篠﨑 貴旭さんらは、より簡便な脱硫法を模索し、紫外線を照射するだけで硫黄分が除去できる手法を見出しました。

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化学酸化チタン電極上で起こる逆分極熱電変換

江口 弘人

近年、IoT 家電やウェアラブル端末の電源として、活用の難しい低温の熱エネルギーを利用した熱電変換が期待されています。特にこの低温の熱エネルギーを電気エネルギーに変換する方法として可逆な酸化還元反応を利用する熱化学電池といわれる熱電変換手法が注目されるようになりました。そこで、私たちの研究室 (化学専攻 ナノ機能化学研究室) でこれまで研究してきたカルボン酸の電気化学的な酸化還元反応を応用して、資源量が豊富な酸化チタンと体にも含まれている乳酸やピルビン酸といった生体親和性の高い材料を使った新しい熱化学電池を構築し、その性能の測定をしました。さらに、この熱化学電池の反応では熱力学的な理論とは逆転して反応が起こることを発見し、この逆転に電極上に吸着した水素が重要であることを明らかにしました。

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化学高効率発光材料の基礎となる錯体内のエネルギー挙動

宮崎 栞

スマートフォンやテレビのディスプレイでよく耳にする有機 EL (エレクトロ・ルミネッセンス) パネルには、有機物に電圧をかけると発光するという仕組みが利用されています。このように、発光する物質は工学的な応用も多く、より高効率かつ色純度の高いものを求めて、様々な材料が開発されています。しかし、そのような発光材料の中には、なぜ高効率な発光を示すのか詳しく分かっていないものが多数存在します。その 1 つが、希土類金属の錯体です。化学専攻 分光分析化学研究室の宮崎さんらは、特に三価ユウロピウムの錯体に注目しました。この錯体の発光の様子を、非常に短い時間間隔で追跡し分析を行ったところ、これまで知られていなかった新しいエネルギー移動のメカニズムがあることが示唆されました。発光材料の基礎的な性質を理解することは、新たな高効率発光材料を開発するヒントとなるため、宮崎さんらの研究は非常に重要です。

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化学乳がんの新しい治療薬に向けて

枡屋宇洋, 松島 綾美

ビスフェール A (BPA) はプラスチックの原料として広く利用されています。ところが近年、BPA がヒト核内受容体へと結びつき、内分泌かく乱物質として毒性をもつことが指摘されました。そこで様々なBPA類似物質が代替として用いられていますが、それらの反応を実際に調べた実験はまだ数えるほどしかなく、BPA 類似物質が生体におよぼす影響はよく分かっていません。そこで構造機能生化学研究室の枡屋宇洋と松島准教授らは、127 種類もの BPA 類似物質について女性ホルモン受容体 α 型との結合を系統的に調べ上げました。5 種類の化合物が、女性ホルモン作用の阻害剤であることを新発見しました。4 つの阻害剤には三環系ビスフェノールという共通構造がありました。この構造が阻害剤として好まれる理由を分子ドッキング法から裏付けました。より根本的な理解へ向けて、DV-Xα 法という第一原理計算をタンパク質系へと世界で初めて適用しました。以上のような基礎研究は、乳がんのような女性ホルモン依存がんの治療薬につながると期待されます。

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化学ナノ粒子でよみがえる日本酒の香り

村山 美乃

日本酒を長期保存すると「老香 (ひねか) 」とよばれる不快な香りが現れることがあります。老香を除くためには、その原因物質である 1,3-ジメチルトリスルファン (DMTS) を除去することが有効です。従来の方法では、活性炭による吸着が伝統的におこなわれてきましたが、良い香りの成分も同時に失われるという問題がありました。そこで触媒有機化学研究室の村山准教授らは、触媒化学という全く新しい切り口から DMTS のみを選択的に吸着するシリカ担持金ナノ粒子 (Au/SiO2) を開発し、その有効性を実証しました。老香が強い日本酒へ Au/SiO2 を混ぜ入れたところ、たった数日で DMTS だけをほぼ 100% 除去できることが分かり、また官能試験によっても老香の抑制が確認されました。さらに Langmuir plot や密度汎関数法による理論的な分析をおこなうことで、選択的な吸着のメカニズムを解明しました。

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化学カルボン酸からアルコールを連続的に生成する装置の開発に成功

貞清 正彰

持続可能な社会を実現するためには、再生可能エネルギーから得られる電気エネルギーを貯めておき、必要に応じて分配することが重要です。近年、電気エネルギーを化学物質の合成に使うことで、化学物質にエネルギーを貯蔵する試みがなされています。カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所の貞清助教らの研究グループは、貯蔵性や輸送性に優れた化学物質としてグリコール酸へ着目し、電力のみを用いてシュウ酸からグリコール酸を連続的に生成する装置の開発に成功しました。

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化学局在プラズモンシートで細胞接着ナノ界面の観察に成功

増田 志穂美

光学顕微鏡には細胞を生きたまま観察できるという利点がある一方で、その原理上、拡大できるサイズに限界があることがわかっています。この限界よりもさらに小さなウイルスやタンパク質などの物質の動きを捉えるために、超分解能顕微鏡の開発が世界中で進められています。ナノ物性化学研究室の増田さんの研究グループは、金属微粒子シートの表面にきわめて近い部分で起こる局在表面プラズモン共鳴(LSPR)現象を利用することで、現在最も「薄い」領域の観察に用いられている全反射照明蛍光(TIRF)顕微鏡を超える、約10nmという「ナノ」領域のイメージングに世界で初めて成功しました。

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化学金属錯体でエネルギー問題解決に挑戦

坪ノ内 優太, 林 樹

人工光合成、中でも水の完全分解を実現するためには、高性能な酸素発生触媒と水素発生触媒を開発する必要があります。「高い酸素発生触媒能を有する直鎖状ルテニウム三核錯体」及び「水素発生に必要な電子を複数貯蔵可能な白金錯体」の開発に成功しました。

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化学アザインドール5員環の不斉水素化に成功

槇田 祐輔

鏡像異性体の片側を選択的につくる不斉合成反応には鏡像異性体を識別できる特別な触媒が必要です。インドール類の不斉水素化のために開発したPhTRAP-ルテニウム触媒がアザインドール類の還元反応にも利用できることを発見しました。発見した反応を応用することで、効率的な医薬品の合成が可能になると期待されます。

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化学分子レベルで観るイオンと水

古川 一輝

気相中に生成した溶媒和金属イオンのクラスターを解析すれば、金属イオン周辺の分子について分子レベルの情報が得られます。赤外分光法により気相中における水和Co+イオンの配位・溶媒和構造を研究し、水和初期過程においてCo+イオンが配位不飽和な構造をとることが明らかになりました。

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化学常識外れの触媒が地球を救う?

吉田 将己, 木本 彩乃

人工光合成を達成するためには安定で活性の高い酸素発生触媒の開発が壁となっていました。酸素発生には金属イオンを2つ以上含む触媒が必要というこれまでの常識をくつがえし、ルテニウムイオン1つしか金属イオンを持たない錯体が非常によい酸素発生触媒として働くことを発見しました。

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化学レアメタル不要 鉄が酸化触媒

小熊 卓也, 國栖 隆

不斉炭素原子を有する第2級アルコールの鏡像異性体の酸化的分割は、これまで高価で埋蔵量が小さいレアメタルを触媒として使う必要がありました。安価で埋蔵量が大きい鉄を中心金属とする錯体が、鏡像異性体の酸化的分割に有用な触媒となる事を初めて見いだしました。

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化学若手科学者賞の受賞に寄せて

松島 綾美

このたび、大学院理学研究院化学部門の松島綾美助教が「平成23年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞」を受賞されました。そこで松島助教に、受賞につながった研究「ビスフェノールとその受容体の構造活性相関の研究」について説明していただきました。

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化学シクロプロペンの新合成法

安富 陽一

光学活性なシクロプロペンは、反応性が高く、キラルビルディングブロックとして有用な化合物である。以前に開発されたイリジウムサレン錯体を用いる高選択的なシクロプロパンの合成を応用し、不斉四級炭素を含む光学活性なシクロプロペンの新たな合成法の開発に成功した。

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化学イオン液体界面のイオン分布

松原 弘樹

燃料電池などで使われる「イオン液体」を水に溶かし「界面活性剤」として使った場合、従来の界面活性剤とは違いはなんだろうか。代表的なイオン液体の1つであるイミダゾリウム型イオン液体の界面では、界面活性剤と結合しているはずの臭化物イオンがBF4イオンに押し出されて分離していることを明らかにした。

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化学膜固定の酵素量 測定に成功

武田 日出夫

膜の表面に酵素を固定して特定の分子を分離する人工膜において、これまで困難とされてきた膜の表面の正確な酵素量の測定に成功し、酵素量の違いによって酵素反応生成物の膜透過速度が変化することが分かった。

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化学薄膜 単分子での固体化に成功

大冨 英輔

アルカンとイオン性界面活性剤を用いて作られる薄膜の固体化はこれまで困難とされてきたが、炭素鎖の長さが同じテトラデカンとTTABの混合溶液を減温処理することで、単分子の固体薄膜を作成することに成功した。塗装などの工業過程やナノテクノロジーなどに応用される膜形成のメカニズムの解明につながると期待される。

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化学簡易で無害なホウ素の定量法

藤森 崇夫

海水中に飲料水の基準値を超えて含まれるホウ素が、膜を使って淡水化する際にどの程度漏れ出したかを分析する簡易で無害な手法が開発された。装置が高価であったり有害な水銀電極が必要であるというこれまでの分析法の問題を解決した。

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化学鏡合わせのケイ素の作り分け

安富 陽一

異なる4つの基と結合したケイ素原子は不斉ケイ素原子と呼ばれ、それを含む化合物には1対のエナンチオマーが存在する。だが、片方のエナンチオマーを選択的に合成することは困難であった。化学専攻修士課程2年の安富さんらは、イリジウムを含む触媒を用いて、不斉ケイ素化合物の高選択的な合成法を確立した。

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化学リン脂質 混ぜると段階的変化

高城 雄一

生物の体の中で重要な役割を果たすリン脂質はほとんど水に溶けず細胞膜(リボソーム)などの集合体を形成する。一方で水に溶けやすいリン脂質は洗剤と類似のミセルなどの集合体を形成する。化学科の高城さんは、これら二つのタイプのリン脂質の混ぜる割合によって、集合体の構造が段階的に変化することを明らかにした。

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