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九大理学部ニュース

生物ツクツクボウシの鳴き声の転調部に潜む生物学的意味

児⽟ 建

ツクツクボウシの鳴き声は「オーシンツクツク」から「ツクリヨーシ」と途中でパターンが変化しますが、このような変化は他の鳴く昆虫には見られない珍しいものです。誰しもが聞いたことのある鳴き声にもかかわらず、このパターンの変化にどのような適応的意義があるのかについては明らかになっていませんでした。そこで、システム生命科学府 生態科学研究室の児⽟さんは、録音したツクツクボウシの鳴き声を他のツクツクボウシに聞かせるプレイバック実験を行い、「オーシンツクツク」のパートと「ツクリヨーシ」のパートでそれを聞いたオスの反応が異なることを発見しました。この研究は、大阪公立大学 大学院理学研究科 客員研究員 (元 九州大学 大学院理学研究院 准教授) の粕谷 英一 博士、九州大学 大学院理学研究院 生物科学部門の立田 晴記 教授と共同で行われました。

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地惑宇宙物質流入と地球生命史

佐藤 峰南

近年の研究では、宇宙からの物質が地球に流入することで、生命に不可欠なリンや鉄などの元素が供給され、生命の進化が促進されたり、反対に大量の宇宙物質が短期間で地球に流入することで寒冷化や生物絶滅が引き起こされたりするといった説が注目されています。これは地球科学の中でも新しい視点であり、かつ非常に重要なテーマです。私たちは、日本の深海底に堆積した岩石を調査し、地球の歴史における宇宙物質の流入量の変化を追うための手法と分析技術を開発してきました。その結果、過去 3 億年間の深海底堆積岩から、これまで報告されていなかった小惑星の衝突が 3 回起きたことや、宇宙からの塵が大量に流入したイベントが 2 回あったことが明らかになりました。これらのイベントが発生した時代には、突発的な生物の絶滅や進化が記録されており、宇宙物質の流入量の変動が、地球の気温や大気の組成の変動と同じく、生命の歴史において重要な役割を果たしていることを示しています。このような研究成果により、令和 5 年度科学技術分野の文部科学大臣表彰「科学技術賞 (研究部門)」を受賞しました。

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数学解けない方程式の中の解ける方程式たち

重富 尚太

求めたい関数の微分を含む関係式を微分方程式といい、特にその関係式の中に求めたい関数の二乗などの項を含むものは、非線形の微分方程式と呼ばれます。また、微分方程式をみたす関数のことを解と呼びます。この手の方程式は、ほとんどの場合、厳密な解を見つけることができないことが知られています。しかし、その中にも偶然、解を具体的な数式で表すことができてしまう場合があり、数学や物理学の興味の対象となっています。今回は、おもちゃとして簡単な工作で作ることができ、工学などへの応用も期待されるカライドサイクルという面白い動きをするヒンジ機構に現れる非線形な方程式とその解について研究されている大学院数理学府の重富 尚太さんにお話を伺いました。この研究は、マス・フォア・インダストリ研究所の梶原 健司 教授、鍛冶 静雄 教授と共同で行われています。

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物理光で回る液晶液滴

齊藤 圭太

レーザー光を集光することで、焦点付近に微小な物体を捕捉する技術を「光ピンセット」といい、この技術を利用することで、細胞などの小さくて柔らかいものを精密に制御することが可能となります。光学異方性を持つ物体であれば、光電場の振動方向が回り続ける円偏光を照射することで、物体を回転させることもできます。この回転は、非接触で制御できることから、マイクロ流動場デバイスとして有用であります。デバイスとして応用するためには、そのエネルギー効率が重要となります。そこで本研究では、内部構造の制御が容易な液晶液滴 (光学異方性粒子) を用いて、その内部構造と回転メカニズムの関係を調べ、エネルギー変換効率の評価を行いました。さらに、エネルギー効率の高い液滴を用いて、制御可能なミクロ流動場の構築に成功しました。

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数学無限次元の球はただの点!?

数川 大輔

図形や空間を研究する分野を幾何学と言います。多角形や多面体のような辺や面からなる図形から、球面のように曲がった空間、さらには専門用語でリーマン多様体と呼ばれる対象など様々なものが研究されています。とりわけ微分幾何学と呼ばれる分野では、空間の上の 2 点を結ぶ最短線を求めたり、空間の曲がり具合を調べたりすることでその空間がどういう形をしているのかを把握していきます。近年、この分野に空間列の収束という新しい考え方が持ち込まれました。高校で習う「数列の収束と極限」のように、空間を少しずつ動かしていくと、空間の性質がどのように変わるのか?また極限に現れる空間はどういう形をしているのか?そのような問題に答えていくのが空間の収束理論です。中でも私 (数理学研究院 数学部門 助教 数川大輔) は次元がどんどん大きくなって無限大になるような空間列に興味を持って研究しています。

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化学紫外線を当てるだけのカンタン脱硫術

篠﨑 貴旭

石油は、種々の乗り物の燃料などに使われており、脱炭素化が叫ばれる今日においても、依然として人々の暮らしに欠かせないものとなっています。石油の主成分は炭素原子と水素原子からなる炭化水素ですが、不純物として硫黄原子をもつ化合物なども含まれています。この硫黄分は、燃焼時に硫黄酸化物として排出され、環境や人体に影響を及ぼすだけでなく、ガソリンや軽油を燃料とする自動車の性能を悪化させる要因にもなります。これまで水素化脱硫と呼ばれる大規模な設備を要する方法で、石油中の硫黄分の除去が行われてきました。しかし、大型の設備が必要であるがゆえに、国や地域によっては今なお脱硫が不十分な石油が流通しています。そこで、触媒有機化学研究室 (徳永 信 教授、村山 美乃 准教授、山本 英治 助教) に所属する化学専攻の篠﨑 貴旭さんらは、より簡便な脱硫法を模索し、紫外線を照射するだけで硫黄分が除去できる手法を見出しました。

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物理重力は量子の世界に仲間入りできるか?

上田 和茂・杉山 祐紀

自然現象を記述する様々な理論を統一し、たった一つの数式で宇宙を表現することは理論物理学の大きな夢です。この世界の全てを描く数式を知ることができれば、きっと宇宙の真理が分かるでしょう。しかし、その数式を見つけ出すには、いくつかの関門を乗り越えなければなりません。その一つが、原子や電子などのミクロな世界を支配する量子力学と、時空と重力を司る一般相対性理論の矛盾のない統合です。この困難に挑戦するため、宇宙物理理論研究室 (山本 一博 教授、菅野 優美 准教授、松村 央 助教、倉持 結 助教) では、重力と量子をキーワードとした外堀を埋める研究が進められています。今回は、宇宙物理理論研究室に所属する物理学専攻の上田 和茂さんと杉山 祐紀さんに、重力と量子のつながりを示すヒントになるかもしれない、いくつかのトピックについてお話しいただきました。

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地惑褐色の海から解き明かす太古の海底環境

倉冨 隆

私たちの生活に欠かせない鉄の原料である鉄鉱石の大部分は、世界中に広がる縞状鉄鉱層 (BIF) と呼ばれる地層から採掘されています。この縞状鉄鉱層は、主に約 27 億年前から約 18 億年前の太古代や原生代に海底で堆積したものだと考えられていますが、その詳しい成因はわかっていません。一方で、鹿児島県 薩摩硫黄島にある長浜湾の海底では、鉄を多く含む熱水が湧き出しており、太古の海底と同じように今まさに鉄鉱層が形成しています。そこで、倉冨 隆さん (研究当時 理学府 地球惑星科学専攻 地球進化史研究室) を含む、理学研究院 地球惑星科学部門の清川 昌一 准教授らの研究グループは、現在の長浜湾の海底環境をアナロジーとして太古の鉄鉱層形成メカニズムを推定し、その形成には生物活動が重要な役割を果たしていた可能性があることを明らかにしました。

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数学素人的発想!フェルマーの方程式に解がある?

松坂 俊輝

整数の性質を研究する分野を整数論といいます。数学にあまり馴染みのない方からすれば、整数は分数や複素数よりも単純で、そのような研究は既にし尽くされているのではないか、と思われるかもしれません。しかし、整数論の重要な未解決問題は数多く残されており、近年になって解決した問題もたくさんあります。かの数学者カール・フリードリヒ・ガウスは「数学は科学の女王であり、整数論は数学の女王である」と言ったといいます。ときに孤高で、ときに奥ゆかしい整数の理論は、何世紀にもわたって世界中の人々を魅了してきました。数理学研究院 数学部門の松坂 俊輝 助教は、そんな整数論について研究されています。今回は、中学校で習う三平方の定理に少し変更を加えるとどうなるのか?という素人的な発想から生まれた疑問について解説していただきました。

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地惑空気を揺らす火山爆発が大地に電流を流す

安仁屋 智

活動的な火山では、地震計やライブカメラをはじめとした様々な観測機器を用いて、火山活動のモニタリングが行われています。地球惑星科学専攻 観測地震・火山学分野の安仁屋さんらは、火口周辺に設置した空振計、地震計、電磁場観測装置を用いて、鹿児島県と宮崎県の県境に位置する霧島新燃岳で 2018 年に発生した噴火を観測しました。観測データから、爆発的噴火で生じる空気の振動 (空振) によって、地面に微弱な電流が流れることを初めて発見しました。

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