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九大理学部ニュース

化学紫外線を当てるだけのカンタン脱硫術

篠﨑 貴旭

石油は、種々の乗り物の燃料などに使われており、脱炭素化が叫ばれる今日においても、依然として人々の暮らしに欠かせないものとなっています。石油の主成分は炭素原子と水素原子からなる炭化水素ですが、不純物として硫黄原子をもつ化合物なども含まれています。この硫黄分は、燃焼時に硫黄酸化物として排出され、環境や人体に影響を及ぼすだけでなく、ガソリンや軽油を燃料とする自動車の性能を悪化させる要因にもなります。これまで水素化脱硫と呼ばれる大規模な設備を要する方法で、石油中の硫黄分の除去が行われてきました。しかし、大型の設備が必要であるがゆえに、国や地域によっては今なお脱硫が不十分な石油が流通しています。そこで、触媒有機化学研究室 (徳永 信 教授、村山 美乃 准教授、山本 英治 助教) に所属する化学専攻の篠﨑 貴旭さんらは、より簡便な脱硫法を模索し、紫外線を照射するだけで硫黄分が除去できる手法を見出しました。

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物理重力は量子の世界に仲間入りできるか?

上田 和茂・杉山 祐紀

自然現象を記述する様々な理論を統一し、たった一つの数式で宇宙を表現することは理論物理学の大きな夢です。この世界の全てを描く数式を知ることができれば、きっと宇宙の真理が分かるでしょう。しかし、その数式を見つけ出すには、いくつかの関門を乗り越えなければなりません。その一つが、原子や電子などのミクロな世界を支配する量子力学と、時空と重力を司る一般相対性理論の矛盾のない統合です。この困難に挑戦するため、宇宙物理理論研究室 (山本 一博 教授、菅野 優美 准教授、松村 央 助教、倉持 結 助教) では、重力と量子をキーワードとした外堀を埋める研究が進められています。今回は、宇宙物理理論研究室に所属する物理学専攻の上田 和茂さんと杉山 祐紀さんに、重力と量子のつながりを示すヒントになるかもしれない、いくつかのトピックについてお話しいただきました。

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地惑褐色の海から解き明かす太古の海底環境

倉冨 隆

私たちの生活に欠かせない鉄の原料である鉄鉱石の大部分は、世界中に広がる縞状鉄鉱層 (BIF) と呼ばれる地層から採掘されています。この縞状鉄鉱層は、主に約 27 億年前から約 18 億年前の太古代や原生代に海底で堆積したものだと考えられていますが、その詳しい成因はわかっていません。一方で、鹿児島県 薩摩硫黄島にある長浜湾の海底では、鉄を多く含む熱水が湧き出しており、太古の海底と同じように今まさに鉄鉱層が形成しています。そこで、倉冨 隆さん (研究当時 理学府 地球惑星科学専攻 地球進化史研究室) を含む、理学研究院 地球惑星科学部門の清川 昌一 准教授らの研究グループは、現在の長浜湾の海底環境をアナロジーとして太古の鉄鉱層形成メカニズムを推定し、その形成には生物活動が重要な役割を果たしていた可能性があることを明らかにしました。

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数学素人的発想!フェルマーの方程式に解がある?

松坂 俊輝

整数の性質を研究する分野を整数論といいます。数学にあまり馴染みのない方からすれば、整数は分数や複素数よりも単純で、そのような研究は既にし尽くされているのではないか、と思われるかもしれません。しかし、整数論の重要な未解決問題は数多く残されており、近年になって解決した問題もたくさんあります。かの数学者カール・フリードリヒ・ガウスは「数学は科学の女王であり、整数論は数学の女王である」と言ったといいます。ときに孤高で、ときに奥ゆかしい整数の理論は、何世紀にもわたって世界中の人々を魅了してきました。数理学研究院 数学部門の松坂 俊輝 助教は、そんな整数論について研究されています。今回は、中学校で習う三平方の定理に少し変更を加えるとどうなるのか?という素人的な発想から生まれた疑問について解説していただきました。

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地惑空気を揺らす火山爆発が大地に電流を流す

安仁屋 智

活動的な火山では、地震計やライブカメラをはじめとした様々な観測機器を用いて、火山活動のモニタリングが行われています。地球惑星科学専攻 観測地震・火山学分野の安仁屋さんらは、火口周辺に設置した空振計、地震計、電磁場観測装置を用いて、鹿児島県と宮崎県の県境に位置する霧島新燃岳で 2018 年に発生した噴火を観測しました。観測データから、爆発的噴火で生じる空気の振動 (空振) によって、地面に微弱な電流が流れることを初めて発見しました。

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化学酸化チタン電極上で起こる逆分極熱電変換

江口 弘人

近年、IoT 家電やウェアラブル端末の電源として、活用の難しい低温の熱エネルギーを利用した熱電変換が期待されています。特にこの低温の熱エネルギーを電気エネルギーに変換する方法として可逆な酸化還元反応を利用する熱化学電池といわれる熱電変換手法が注目されるようになりました。そこで、私たちの研究室 (化学専攻 ナノ機能化学研究室) でこれまで研究してきたカルボン酸の電気化学的な酸化還元反応を応用して、資源量が豊富な酸化チタンと体にも含まれている乳酸やピルビン酸といった生体親和性の高い材料を使った新しい熱化学電池を構築し、その性能の測定をしました。さらに、この熱化学電池の反応では熱力学的な理論とは逆転して反応が起こることを発見し、この逆転に電極上に吸着した水素が重要であることを明らかにしました。

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数学バスの混雑度予測アルゴリズム

吉田 航

コロナ禍の現在において、感染から身を守るために混雑している場所を避けることは重要になっています。我々が日ごろ通勤・通学に使用しているバスでも混雑する時間帯は避けたいものです。そこで、大学院システム情報科学研究院の荒川豊教授の研究室では、混雑を避けて通学ができるように、九州大学伊都キャンパス関連のバス停の混雑度をリアルタイムで可視化するアプリ「itocon」を開発されています。私 (数理学府数理学専攻 廣瀬研究室 修⼠課程 吉田航) はこの一環で、バス停の混雑度の予測を、過去の混雑度のデータを使って自動的に導出するアルゴリズムを作り、itocon に実装していただいております。私は、このアルゴリズムを、数学の統計という分野の知識を使って構築しました。

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生物クチキゴキブリが編み出した新奇な戦略

大崎 遥花

屋内に現れ、苦手な人が多い茶色の昆虫、ゴキブリ。日本には 50 種類以上のゴキブリが生息していますが、そのうち人家に現れ衛生害虫とされるものは、実はたったの数種類しかいません。クチキゴキブリは、人家には棲みつかない森林性のゴキブリで、普段は朽ちた木の中で生活しています。このクチキゴキブリの一種であるリュウキュウクチキゴキブリが、これまで他の生物では見つかったことのない不思議な行動をとることを、システム生命科学府 生態科学研究室の大崎さんと大学院理学研究院 生物科学部門の粕谷 英一 准教授が発見しました。この行動とは、オスとメスが交尾の前後でお互いの翅を食べてしまい、その後は二度と飛べなくなってしまう、というものです。「交尾時」に「食べる」行動として、性的共食いや婚姻贈呈という繁殖戦略が知られていますが、今回見つかった翅の食い合いはこれらには当てはまらず新たなカテゴリーに分類される可能性があります。

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数学物理現象を記述する数式の世界

藤井 幹大

わたしたちの暮らしを支える多くの技術は、自然界で起こる様々な現象を人類が理解することによって発展していきました。科学の加速的な発展は、複雑な物理現象を理解しやすい数式という形で明瞭化し、定量的な予測を可能にしたことによるところが大きいと考えられます。多くの場合、この物理現象を記述する数式は、高校数学で学ぶ微分を用いた微分方程式という形の数式で表現されます。そのため、多くの物理現象が微分方程式のもつ数学的側面から理解されてきました。数理学府 博士後期課程の藤井さんは、空気や水など流体の運動を記述するナビエ-ストークス方程式について研究しています。微分方程式の魅力や最近得られた研究成果について藤井さんに解説していただきます。

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数学最小限の測定データから有用な遺伝子を見出す

沖永 悠一

遺伝子は、しばしば「生命の設計図」とも呼ばれるように、そこに書かれた情報をもとにタンパク質が合成され、生物の様々な性質や機能が現れています。そのため、どの遺伝子が作用して、どのような性質 (形質) が現れているのかを同定することができれば、体質や病気のかかりやすさなどを調べることができます。しかし、この同定には、いくつかの難しいポイントがあります。まず、調べるべき遺伝子の数が現実的な測定データの数を大きく上回ってしまうこと、そして、遺伝子は他の複数の遺伝子と相互作用して、複雑に関係しあっていることです。そこで、沖永悠⼀さん (研究当時、数理学府数理学専攻 廣瀬研究室 修⼠課程) と九州⼤学マス・フォア・インダストリ研究所の廣瀬慧准教授は、⿓⾕⼤学農学部の永野惇准教授、 兵庫県⽴⼈と⾃然の博物館の京極⼤助研究員、トヨタ自動車株式会社の近藤聡⽒との共同研究で、相互作用する遺伝子の繋がりを考慮した擬似的な測定データをランダムに生成し、どれほどの測定データがあれば十分な精度で遺伝子の同定が可能かを計算しました。

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