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九大理学部ニュース

数学素人的発想!フェルマーの方程式に解がある?

松坂 俊輝

整数の性質を研究する分野を整数論といいます。数学にあまり馴染みのない方からすれば、整数は分数や複素数よりも単純で、そのような研究は既にし尽くされているのではないか、と思われるかもしれません。しかし、整数論の重要な未解決問題は数多く残されており、近年になって解決した問題もたくさんあります。かの数学者カール・フリードリヒ・ガウスは「数学は科学の女王であり、整数論は数学の女王である」と言ったといいます。ときに孤高で、ときに奥ゆかしい整数の理論は、何世紀にもわたって世界中の人々を魅了してきました。数理学研究院 数学部門の松坂 俊輝 助教は、そんな整数論について研究されています。今回は、中学校で習う三平方の定理に少し変更を加えるとどうなるのか?という素人的な発想から生まれた疑問について解説していただきました。

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地惑空気を揺らす火山爆発が大地に電流を流す

安仁屋 智

活動的な火山では、地震計やライブカメラをはじめとした様々な観測機器を用いて、火山活動のモニタリングが行われています。地球惑星科学専攻 観測地震・火山学分野の安仁屋さんらは、火口周辺に設置した空振計、地震計、電磁場観測装置を用いて、鹿児島県と宮崎県の県境に位置する霧島新燃岳で 2018 年に発生した噴火を観測しました。観測データから、爆発的噴火で生じる空気の振動 (空振) によって、地面に微弱な電流が流れることを初めて発見しました。

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化学酸化チタン電極上で起こる逆分極熱電変換

江口 弘人

近年、IoT 家電やウェアラブル端末の電源として、活用の難しい低温の熱エネルギーを利用した熱電変換が期待されています。特にこの低温の熱エネルギーを電気エネルギーに変換する方法として可逆な酸化還元反応を利用する熱化学電池といわれる熱電変換手法が注目されるようになりました。そこで、私たちの研究室 (化学専攻 ナノ機能化学研究室) でこれまで研究してきたカルボン酸の電気化学的な酸化還元反応を応用して、資源量が豊富な酸化チタンと体にも含まれている乳酸やピルビン酸といった生体親和性の高い材料を使った新しい熱化学電池を構築し、その性能の測定をしました。さらに、この熱化学電池の反応では熱力学的な理論とは逆転して反応が起こることを発見し、この逆転に電極上に吸着した水素が重要であることを明らかにしました。

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数学バスの混雑度予測アルゴリズム

吉田 航

コロナ禍の現在において、感染から身を守るために混雑している場所を避けることは重要になっています。我々が日ごろ通勤・通学に使用しているバスでも混雑する時間帯は避けたいものです。そこで、大学院システム情報科学研究院の荒川豊教授の研究室では、混雑を避けて通学ができるように、九州大学伊都キャンパス関連のバス停の混雑度をリアルタイムで可視化するアプリ「itocon」を開発されています。私 (数理学府数理学専攻 廣瀬研究室 修⼠課程 吉田航) はこの一環で、バス停の混雑度の予測を、過去の混雑度のデータを使って自動的に導出するアルゴリズムを作り、itocon に実装していただいております。私は、このアルゴリズムを、数学の統計という分野の知識を使って構築しました。

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生物クチキゴキブリが編み出した新奇な戦略

大崎 遥花

屋内に現れ、苦手な人が多い茶色の昆虫、ゴキブリ。日本には 50 種類以上のゴキブリが生息していますが、そのうち人家に現れ衛生害虫とされるものは、実はたったの数種類しかいません。クチキゴキブリは、人家には棲みつかない森林性のゴキブリで、普段は朽ちた木の中で生活しています。このクチキゴキブリの一種であるリュウキュウクチキゴキブリが、これまで他の生物では見つかったことのない不思議な行動をとることを、システム生命科学府 生態科学研究室の大崎さんと大学院理学研究院 生物科学部門の粕谷 英一 准教授が発見しました。この行動とは、オスとメスが交尾の前後でお互いの翅を食べてしまい、その後は二度と飛べなくなってしまう、というものです。「交尾時」に「食べる」行動として、性的共食いや婚姻贈呈という繁殖戦略が知られていますが、今回見つかった翅の食い合いはこれらには当てはまらず新たなカテゴリーに分類される可能性があります。

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数学物理現象を記述する数式の世界

藤井 幹大

わたしたちの暮らしを支える多くの技術は、自然界で起こる様々な現象を人類が理解することによって発展していきました。科学の加速的な発展は、複雑な物理現象を理解しやすい数式という形で明瞭化し、定量的な予測を可能にしたことによるところが大きいと考えられます。多くの場合、この物理現象を記述する数式は、高校数学で学ぶ微分を用いた微分方程式という形の数式で表現されます。そのため、多くの物理現象が微分方程式のもつ数学的側面から理解されてきました。数理学府 博士後期課程の藤井さんは、空気や水など流体の運動を記述するナビエ-ストークス方程式について研究しています。微分方程式の魅力や最近得られた研究成果について藤井さんに解説していただきます。

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数学最小限の測定データから有用な遺伝子を見出す

沖永 悠一

遺伝子は、しばしば「生命の設計図」とも呼ばれるように、そこに書かれた情報をもとにタンパク質が合成され、生物の様々な性質や機能が現れています。そのため、どの遺伝子が作用して、どのような性質 (形質) が現れているのかを同定することができれば、体質や病気のかかりやすさなどを調べることができます。しかし、この同定には、いくつかの難しいポイントがあります。まず、調べるべき遺伝子の数が現実的な測定データの数を大きく上回ってしまうこと、そして、遺伝子は他の複数の遺伝子と相互作用して、複雑に関係しあっていることです。そこで、沖永悠⼀さん (研究当時、数理学府数理学専攻 廣瀬研究室 修⼠課程) と九州⼤学マス・フォア・インダストリ研究所の廣瀬慧准教授は、⿓⾕⼤学農学部の永野惇准教授、 兵庫県⽴⼈と⾃然の博物館の京極⼤助研究員、トヨタ自動車株式会社の近藤聡⽒との共同研究で、相互作用する遺伝子の繋がりを考慮した擬似的な測定データをランダムに生成し、どれほどの測定データがあれば十分な精度で遺伝子の同定が可能かを計算しました。

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生物細胞の「柔らかさの変化」が細胞の急速な形態変化を可能にする

青木 佳南

悪性化したがん細胞は非常に高い運動能力を持ち、血管内へと潜り込み、体内の別の組織へと転移します。この時、がん細胞は前方にブレブと呼ばれる大型の突起を活発に形成し、これを足として使うことで、自らの形態を大きく変形させながら狭い隙間を潜り抜けるように移動します。しかし、細胞がどのようにして急激なブレブの拡大を可能にし、自らの形態をダイナミックに変形させているのかは全く明らかになっていませんでした。大阪大学 微生物病研究所の青木 佳南 (研究当時 本学大学院理学研究院 生物科学部門 特任助教) と九州大学 大学院理学研究院 生物科学部門の池ノ内 順一 教授らは、拡大中のがん細胞のブレブ内では、細胞質の流動性が大きく上昇し、柔らかい細胞質領域が形成されていることを見出しました。さらに、拡大中のブレブ内にはカルシウムイオンが大量に流入しており、それにより細胞質の性質の変化が起こることが分かりました。この研究により、細胞は部分的に細胞質の柔らかさを変化させることで、細胞運動時の柔軟な変形を可能にしていることが初めて明らかになりました。

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数学数理モデルが明らかにする情報と人々の動き

吉田 明広

Web サイトが魅力的なものかどうかを示す指標として「アクセス数」や「平均滞在時間」などがあります。SNS においては「いいね」の数が多いほど、多くの人々の目に留まったことを示しているでしょう。仮に「アクセス数」が少ないとしても、特定の人々に対しては非常に魅力的な Web サイトである場合もあります。数理学府 数理学専攻 藤澤研究室の吉田さんらは、ヤフー株式会社との共同研究で、ネットサーフィンをするユーザーの動きをグラフ理論・数理最適化・統計学を用いて解析し、Web サイトの新たな魅力度を表す指標を提案しました。本指標により、各ユーザーに価値のあるコンテンツ (つまり「おすすめ」) の提供が、より効果的に行えるようになると考えられます。また、Web サイトの解析に限らず、吉田さんらは、実社会の様々な問題の解決に数理最適化などの数学を用いて取り組んでいます。その一例として、自転車シェアリングサービスの自転車再配置最適化の研究を後半で紹介します。これらの技術は、超スマート社会 (Society 5.0) の実現に向けたコア技術として注目されています。

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生物役立つ大腸菌を創る

iGEM Qdai チーム

iGEM (The International Genetically Engineered Machine) Competition とは、合成生物学をキーワードとした、大学生が主体となって世の中の問題を解決するためのアイデアを出し合う国際大会です。最近よく耳にする遺伝子組み替えやゲノム編集などの技術の進歩により、生物や細胞に新たな機能を付け加えたり取り除いたりすることが可能になりました。古くから私たちは品種改良によって長い時間をかけて新たな農作物つくり、生活を豊かにしてきましたが、この合成生物学は私たちの生活の豊かさの向上をさらに加速させます。iGEM Competition でアイデアの提案によく利用される生物は、遺伝子操作を行いやすい大腸菌です。これまでの大会で作成された新たな機能をもつ大腸菌は、環境問題の解決から医療に役立つものまで多岐にわたります。昨年 11 月に iGEM Competition の 2020 年大会が行われ、九州大学で初めてメンバーを募ってエントリーし、Silver medal (銀賞) を獲得しました。現在は、2021 年大会に向けて準備を進めています。

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