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空気を揺らす火山爆発が大地に電流を流す(

霧島新燃岳の爆発的噴火で生じた空振により励起された電流を発見

著者

 活動的な火山では、地震計やライブカメラをはじめとした様々な観測機器を用いて、火山活動のモニタリングが行われています。地球惑星科学専攻 観測地震・火山学分野の安仁屋さんらは、火口周辺に設置した空振計、地震計、電磁場観測装置を用いて、鹿児島県と宮崎県の県境に位置する霧島新燃岳で 2018 年に発生した噴火を観測しました。観測データから、爆発的噴火で生じる空気の振動 (空振) によって、地面に微弱な電流が流れることを初めて発見しました。この研究成果は Geophysical Research Letters 誌に掲載されています。

安仁屋 智(大学院理学府 地球惑星科学専攻)
構成:中島 涼輔(大学院理学研究院)

火山で観測される様々なカップリング

 活動的な火山周辺では、噴火状況や爆発規模を監視するために地震観測や空振infrasound[1]観測、地殻変動観測[2]など様々な観測が並行して実施されています。近年は研究が進み、これらの様々な観測データが相互に関連 (カップリング) していることが分かってきました。例えば地震と空振カップリングについての研究では、噴火など火山活動によって発生した空振波が空気中を伝播することで、鉛直方向の地面の揺れ (地震動) を発生させることが分かっています。また、地震波によって地中に電流が生じる例も数多く報告されています。その一方で空振によって電流が生じるという報告はこれまでありませんでした。本研究では、活動的火山である霧島新燃岳[3]で空振・地震・MT (magnetotelluric: 地磁気-地電流) 観測[4]を同じ場所で行うことによって、爆発的噴火が発生した時に空振と電場のカップリングが明瞭に生じていることを初めて発見しました

空振・地震・MT 観測

 本研究では、2018 年霧島新燃岳の爆発的なブルカノ式噴火で得られた波形に着目しました。火口周辺の空振計、地震計、MT データを解析した結果、爆発的噴火に伴う空振波が観測点に到来すると同時に、同じ場所で電場変動を起こす、すなわち地中に電流を流すことが分かりました (図1)。また、地震計データからは、先行研究と同様に、空振が到来した時に鉛直方向の地面の揺れを発生させることも分かりました。

<dfn class="fig">図1</dfn>:<span class="qrinews-figure-title">爆発的噴火で観測された波形例</span> 観測点① (左) と観測点② (右) (位置は<a href="#fig2"><cite class="fig">図2</cite></a>を参照) の波形例を示している。空振波 (緑色) の到来によって電場 (赤色) が変動している、すなわち電流が流れていることが分かる。同時に地面も上下に振動している (青色)。<a href="#app1" class="link-to-lower-part"><cite class="article"><span class="i">Aniya et al</span>. (2022)</cite></a> の図を改変。虫眼鏡をもったきゅうりくん@右下
図1爆発的噴火で観測された波形例 観測点① (左) と観測点② (右) (位置は図2を参照) の波形例を示している。空振波 (緑色) の到来によって電場 (赤色) が変動している、すなわち電流が流れていることが分かる。同時に地面も上下に振動している (青色)。Aniya et al. (2022) の図を改変。

電流が流れる方向と地下水の存在

 電流が流れている方向を調べるために、電場の振動方向の軌跡を地図上に図示してみると、どの爆発的噴火でもある共通した方向性があることが分かりました (図2)。空振到来時の電場変動が、概ね火口方向を向いて開始していたのです。空振によるこの電場変動が以下に説明するような「流動電位streaming potential」によって生じるのではないかと考えました。

<dfn class="fig">図2</dfn>:<span class="qrinews-figure-title">MT 観測点で記録された電場変動 (電流) の方向性 (赤線)</span> 黄色い実線矢印は、空振到来時に最初の電場変動が生じる方向で、水平 2 成分 (点線矢印) を合成して示している。どの成分も観測点から火口に向かう方向の電場変動が最初に生じていることが分かる。<a href="#app1" class="link-to-lower-part"><cite class="article"><span class="i">Aniya et al</span>. (2022)</cite></a> の図を改変。虫眼鏡をもったきゅうりくん@右下
図2MT 観測点で記録された電場変動 (電流) の方向性 (赤線) 黄色い実線矢印は、空振到来時に最初の電場変動が生じる方向で、水平 2 成分 (点線矢印) を合成して示している。どの成分も観測点から火口に向かう方向の電場変動が最初に生じていることが分かる。Aniya et al. (2022) の図を改変。

 大地を構成する岩石は多孔質で、その空隙には沢山の地下水が含まれています。この時、岩石と地下水の境界面 (界面) では電荷の分離 (分極) が生じます。分極が生じている領域は電気二重層と呼ばれ、通常は岩石側に負電荷、地下水側に正電荷が生じます (図3)。界面から離れた地下水側の正電荷は自由度が高く、地下水が流動すると下流側に運ばれていきます。電荷の移動は電流なので、これを携帯電流drug currentと呼びますが、電流計や電位差計で測定することはできません。測定できるのは携帯電流によって生じた電荷のかたよりを打ち消す向きに流れる伝導電流conduction currentです。つまり地下水の流れの向きと反対向きに測定可能な電流が生じることになります。

<dfn class="fig">図3</dfn>:<span class="qrinews-figure-title">岩石と地下水の界面で電荷の分離が生じる</span> 図の一部は、<a href="https://www.irasutoya.com" class="link-to-external-page" target="_blank"><cite class="article" lang="ja">いらすとや</cite></a>より引用。虫眼鏡をもったきゅうりくん@右下
図3岩石と地下水の界面で電荷の分離が生じる 図の一部は、いらすとやより引用。

 空振が鉛直方向の地面の揺れを生じさせると、地下水が水平方向に動くことが期待できます。水を沢山含んだスポンジを、寝かせた指で上から押すと、指と直交方向に水が動くイメージです。その結果、水の方向と逆向きの電流が期待できます (図4)。この考えは、空振が到来したときに最初に電流が流れる向きが火口方向という結果 (図2) と一致しており、理論から予想される電流の大きさも観測値と概ね一致していることが分かりました。

<dfn class="fig">図4</dfn>:<span class="qrinews-figure-title">爆発的噴火で生じる空振 (右) とそれによる電流の模式図 (左)</span> 空振が地面を上下に押して水平方向に水を動かす。この時、観測可能な電流 (伝導電流) が発生する。図は安仁屋さんより提供。虫眼鏡をもったきゅうりくん@右下
図4爆発的噴火で生じる空振 (右) とそれによる電流の模式図 (左) 空振が地面を上下に押して水平方向に水を動かす。この時、観測可能な電流 (伝導電流) が発生する。図は安仁屋さんより提供。

今後の展望

 本研究で発見された空振による電場変動は、爆発的噴火が発生する他の火山でも発生している可能性があります。今後は頻繁に噴火する火山や、異なる環境の火山で観測することで、より詳しい原因が分かるかもしれません。また、火山噴火に限らず空振が発生するような爆発的現象であれば、同様の電流が検出される可能性があります。例えば打ち上げ花火や竜巻などを用いることで観測事例を増やすことが出来るかもしれません。空振と電流の関係は、観測点下の地下水の状態 (水深や地下水量等) に支配されている可能性があり、今後は空振と電場の並行観測が地下水モニタリングの研究に応用されることが期待されます。火口からは噴火が起こっていない時にも微弱な空振が発生していることがあり、これによる電流が検出できるなら、火口近傍のモニタリングにも利用できるかもしれません。

研究こぼれ話


著者小学 5 年生の時に霧島新燃岳に登山したことがあり、当時のエメラルドグリーンの火口湖がとても美しく印象的でした。その 4 年後から始まった噴火によって火口湖は消失し、今では溶岩に埋め尽くされています。短期間でその姿を一変させる火山のパワーに衝撃を受けました。火山噴火に興味を持つきっかけとなったこの山を研究フィールドに出来たことに、縁を感じています。

著者観測調査では重い機材を担いで登山することもあります。データを取るには時間と労力がかかりますが、現地の食べ物や温泉の他、季節の移り変わりを楽しむことができ、アクティブな研究生活を満喫できることが魅力です。

Note:

  • [1] 人間の可聴領域より低い 20 Hz 以下の周波数で空気中を伝播する音波のこと。
  • [2] GNSS (全球測位衛星システム) や水準測量などを用いた測地学的観測のこと。
  • [3] 鹿児島県と宮崎県の県境に位置する活火山。2011 年に約 300 年振りに準プリニー式噴火が発生し、その後は 2017 年と 2018 年に再び噴火が発生するなど、活発な活動が継続している。今回の研究で着目した 2018 年の噴火は、はじめは連続的に火山灰を放出する噴火だったが、その後は爆発的なブルカノ式噴火へと移行して、次第に噴火間隔が長くなり最後は噴火を停止した。
  • [4] 地球の磁場 (地磁気) は常に変動している。この変動は電磁誘導の法則によって地中に起電力 (電場) を生じさせるため、地中には常に微弱な電流が流れている。この現象を利用するのが MT 法 (magnetotellurics:地磁気・地電流法) である。電場と磁場 (電磁場) の観測値から、地中の電気の流れにくさ (比抵抗) を計算することが出来る。電場は 2 つの電極間の電位差を使って水平 2 成分 (東西と南北方向)、磁場は磁場センサーを使って水平と鉛直の 3 成分を測定する。電磁場の周期ごとに伝わる深さが異なるという性質を利用して、MT 観測は地下の構造を知るために活用されている。

より詳しく知りたい方は・・・

タイトル
Infrasound–electric-field coupling associated with the 2018 Shinmoe-dake eruptions, Kirishima volcanic complex, Japan
著者
Satoru Aniya, Koki Aizawa, Takeshi Matsushima
掲載誌
Geophysical Research Letters 49, e2021GL096555 (2022)
参考図書
北原文雄ほか「ゼータ電位―微粒子界面の電気化学」学部生以上向け
トピックス
平成新山で防災登山が行われ、清水 特任教授、松島 准教授、西脇 瑞紀さん、安仁屋 智さんが取材を受けました。
研究室HP
地震火山観測研究センター
キーワード
火山噴火、空振、電磁場変動、流動電位