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九大理学部ニュース

数学数学で導くハイブリッド車の最適な制御

立岩 斉明

ハイブリット車の開発現場では、モデルベース開発 (MBD) が主流となっています。MBD ではシミュレーション上に車を再現して、テストコースを走行させることで燃費性能を測ります。その際に、車の性能を最大限に引き出すようにシミュレータを制御することが重要となります。従来はシミュレータの制御法を人の手でチューニングしており、シミュレータの一つ一つに対して手作業で制御を最適化してきました。しかし、この方法にはかなりの時間がかかり、またシミュレータが新しくなるごとに再調整しなければならないという問題を抱えていました。そこで我々は、シミュレータ制御の最適化を「グラフ上の制約付き最短経路問題」という数学の問題に焼き直し、その問題を解くプロセスを自動化することで、従来よりも高速で汎用的なアルゴリズムを開発しました。

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地惑台風を発達・維持させる新たな巨視的メカニズム

藤原 圭太

台風による豪雨や暴風は、人命を脅かすのみならず社会や経済にも甚大な被害をあたえます。このような脅威に備えるためには、台風の理論的な予測が重要となります。近年では気象観測が進歩しており、計算機による気象シミュレーションも高精度化したことから、台風の「進路」については高い精度で予測できるようになってきました。一方で、台風の「強度」予測については 1990 年代から誤差が改善していないという現状がありました。そこで気象学・気候力学研究室の藤原さんらは、これまでほとんど考慮されてこなかった「台風から遠く離れた海域にある水蒸気の輸送帯 (MCB)」に着目することで、台風を維持・発達させる新たな巨視的メカニズムを明らかにしました。洗練された気象モデルによるシミュレーションをおこない、海面水温の改変実験や台風の除去実験を加えることで、台風と MCB 間のフィードバックが台風事例や気象モデルによらない普遍的な現象であることを証明しました。

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化学ナノ粒子でよみがえる日本酒の香り

村山 美乃

日本酒を長期保存すると「老香 (ひねか) 」とよばれる不快な香りが現れることがあります。老香を除くためには、その原因物質である 1,3-ジメチルトリスルファン (DMTS) を除去することが有効です。従来の方法では、活性炭による吸着が伝統的におこなわれてきましたが、良い香りの成分も同時に失われるという問題がありました。そこで触媒有機化学研究室の村山准教授らは、触媒化学という全く新しい切り口から DMTS のみを選択的に吸着するシリカ担持金ナノ粒子 (Au/SiO2) を開発し、その有効性を実証しました。老香が強い日本酒へ Au/SiO2 を混ぜ入れたところ、たった数日で DMTS だけをほぼ 100% 除去できることが分かり、また官能試験によっても老香の抑制が確認されました。さらに Langmuir plot や密度汎関数法による理論的な分析をおこなうことで、選択的な吸着のメカニズムを解明しました。

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物理岩下助教らによる研究が Advances in Engineering 社の注目論文として紹介されました。

岩下 靖孝

コロイド粒子はナノテクノロジーの最先端から自然現象に至るまで随所に現れます。近年では「異方的」コロイド粒子系が盛んに研究されており、「等方的」な系には見られないような新規で多彩な凝縮構造が発見されつつありますが、「異方性」から秩序が生まれるメカニズムは未だ解明されていません。複雑物性基礎研究室の岩下助教らはパッチ粒子と呼ばれるシンプルな異方的コロイド粒子に着目し、パッチ粒子の凝縮構造や自己組織化を実験的に調べることで、「異方性」と「凝縮構造」との対応関係を調べています。今回の研究では密充填から分散状態までの 1 パッチ粒子系を観測し、数値シミュレーションで解析することで、方向秩序を生み出すメカニズムが密度によって変化することを明らかにしました。

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化学カルボン酸からアルコールを連続的に生成する装置の開発に成功

貞清 正彰

持続可能な社会を実現するためには、再生可能エネルギーから得られる電気エネルギーを貯めておき、必要に応じて分配することが重要です。近年、電気エネルギーを化学物質の合成に使うことで、化学物質にエネルギーを貯蔵する試みがなされています。カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所の貞清助教らの研究グループは、貯蔵性や輸送性に優れた化学物質としてグリコール酸へ着目し、電力のみを用いてシュウ酸からグリコール酸を連続的に生成する装置の開発に成功しました。

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生物HIV 感染症における多重感染現象の理論的研究

伊藤 悠介

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の遺伝子は驚異的な多様性を示します。この多様性をもたらす原因の1つとして、多重感染が注目されています。多重感染のメカニズムはウイルス感染実験により調べられており、その様相が明らかになりつつありますが、定量的な理解はいまだ確立されていません。数理生物学研究室の伊藤さんらの研究グループは、細胞の感受性が細胞ごとに不均一であることへ着目し、感受性の連続的な分布を取り入れた数理モデルを構築しました。ウイルス感染実験から得られたデータを数理モデルで解析することで、HIV 多重感染数が負の二項分布に従うことを示し、感染細胞集団中での多重感染細胞の割合は最大40%であることを明らかにしました。

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物理物質と生命の普遍法則を求めて

別府 航早

自発的に動く粒子(アクティブマター)が集団運動を出現させる仕組みとその共通性を理解する研究が近年注目を集めています。アクティブマターの代表であるバクテリア集団を円形容器に閉じ込めると渦運動が出現しますが、この根底にあるメカニズムは明らかになっていません。複雑流体研究室の別府さんらは、自由にデザインされた境界を用いた実験を行い数理モデルと結びつけることで渦の集団的パターンを操る仕組みを明らかにし、たったひとつの数式で示すことに成功しました。

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地惑「地球外アミノ酸」リストに8種が加わる

古賀 俊貴

地球上の全生命に共通する原材料のアミノ酸は、地球に落下した隕石からも検出されます。この地球外アミノ酸は隕石母天体上で非生物的に、具体的にはストレッカー反応などで合成されたと考えられてきました。有機宇宙地球化学研究分野の古賀さんと奈良岡教授は、隕石母天体の環境を再現したアンプル内で加熱処理のみによって非生物的アミノ酸合成が進むことを確認しましたが、このときストレッカー反応ではつくられない種類のアミノ酸もできており、アンモニアを伴うホルモース型反応が起きたことがわかりました。続いて、これらのアミノ酸が実際の隕石に含まれているどうかを確認するためマーチソン隕石試料を分析し、新たに7種類のヒドロキシアミノ酸と1種類のβアミノジカルボン酸が地球外でも合成されることを確認しました。

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化学局在プラズモンシートで細胞接着ナノ界面の観察に成功

増田 志穂美

光学顕微鏡には細胞を生きたまま観察できるという利点がある一方で、その原理上、拡大できるサイズに限界があることがわかっています。この限界よりもさらに小さなウイルスやタンパク質などの物質の動きを捉えるために、超分解能顕微鏡の開発が世界中で進められています。ナノ物性化学研究室の増田さんの研究グループは、金属微粒子シートの表面にきわめて近い部分で起こる局在表面プラズモン共鳴(LSPR)現象を利用することで、現在最も「薄い」領域の観察に用いられている全反射照明蛍光(TIRF)顕微鏡を超える、約10nmという「ナノ」領域のイメージングに世界で初めて成功しました。

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生物AIDS研究の数理モデル

岩波 翔也

サル/ヒト免疫不全ウイルス(SHIV)は後天性免疫不全症候群(AIDS)の病態解明を探索する重要なツールとして利用されています。SHIVには異なる病原性を示す複数の株が存在しますが、それらの定量的な感染動態についてはほとんど研究が進んでいませんでした。数理生物学研究室の岩波翔也さんらの研究グループは、数理モデルを用いて培養細胞から得られたウイルス感染実験データを解析し、感染性のあるウイルスの産生効率の違いが、高病原性と弱病原性を決定付ける要因のひとつであることを明らかにしました。

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