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九大理学部ニュース(分野別:数学)

数学割れる?割れない?ゲーベルの不思議な数列

松比良凜ノ介、土田煌己、松坂俊輝

数学科の 1 年前期では、コアセミナー I という専攻教育科目を受講することになっています。数学科の 1 年生が 4 つのグループに分かれ、各グループを担当する数学科の教員が設定した課題図書を読み進めていきます。松坂助教が担当するクラスでは、「せいすうたん 1」という本を毎週 1 話ずつ進めていき、各話の担当者が勉強してきたことを発表します。1 年生の松比良さんと土田さんはゲーベル数列という数列を取り扱った話が担当で、2 人は「せいすうたん 1」には明記されていなかった未解決問題を自ら設定し、その答えについて予想と考察を発表したそうです。その発表を聴いた松坂助教は「問題設定としては完璧、これは面白いことができる」と感じ、3 人でその問題に取り組むことになりました。松坂助教のサポートにより、2 人の予想が正しかったことが証明され、その成果は論文として掲載されることが決まっています。

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数学解けない方程式の中の解ける方程式たち

重富 尚太

求めたい関数の微分を含む関係式を微分方程式といい、特にその関係式の中に求めたい関数の二乗などの項を含むものは、非線形の微分方程式と呼ばれます。また、微分方程式をみたす関数のことを解と呼びます。この手の方程式は、ほとんどの場合、厳密な解を見つけることができないことが知られています。しかし、その中にも偶然、解を具体的な数式で表すことができてしまう場合があり、数学や物理学の興味の対象となっています。今回は、おもちゃとして簡単な工作で作ることができ、工学などへの応用も期待されるカライドサイクルという面白い動きをするヒンジ機構に現れる非線形な方程式とその解について研究されている大学院数理学府の重富 尚太さんにお話を伺いました。この研究は、マス・フォア・インダストリ研究所の梶原 健司 教授、鍛冶 静雄 教授と共同で行われています。

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数学無限次元の球はただの点!?

数川 大輔

図形や空間を研究する分野を幾何学と言います。多角形や多面体のような辺や面からなる図形から、球面のように曲がった空間、さらには専門用語でリーマン多様体と呼ばれる対象など様々なものが研究されています。とりわけ微分幾何学と呼ばれる分野では、空間の上の 2 点を結ぶ最短線を求めたり、空間の曲がり具合を調べたりすることでその空間がどういう形をしているのかを把握していきます。近年、この分野に空間列の収束という新しい考え方が持ち込まれました。高校で習う「数列の収束と極限」のように、空間を少しずつ動かしていくと、空間の性質がどのように変わるのか?また極限に現れる空間はどういう形をしているのか?そのような問題に答えていくのが空間の収束理論です。中でも私 (数理学研究院 数学部門 助教 数川大輔) は次元がどんどん大きくなって無限大になるような空間列に興味を持って研究しています。

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数学素人的発想!フェルマーの方程式に解がある?

松坂 俊輝

整数の性質を研究する分野を整数論といいます。数学にあまり馴染みのない方からすれば、整数は分数や複素数よりも単純で、そのような研究は既にし尽くされているのではないか、と思われるかもしれません。しかし、整数論の重要な未解決問題は数多く残されており、近年になって解決した問題もたくさんあります。かの数学者カール・フリードリヒ・ガウスは「数学は科学の女王であり、整数論は数学の女王である」と言ったといいます。ときに孤高で、ときに奥ゆかしい整数の理論は、何世紀にもわたって世界中の人々を魅了してきました。数理学研究院 数学部門の松坂 俊輝 助教は、そんな整数論について研究されています。今回は、中学校で習う三平方の定理に少し変更を加えるとどうなるのか?という素人的な発想から生まれた疑問について解説していただきました。

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数学バスの混雑度予測アルゴリズム

吉田 航

コロナ禍の現在において、感染から身を守るために混雑している場所を避けることは重要になっています。我々が日ごろ通勤・通学に使用しているバスでも混雑する時間帯は避けたいものです。そこで、大学院システム情報科学研究院の荒川豊教授の研究室では、混雑を避けて通学ができるように、九州大学伊都キャンパス関連のバス停の混雑度をリアルタイムで可視化するアプリ「itocon」を開発されています。私 (数理学府数理学専攻 廣瀬研究室 修⼠課程 吉田航) はこの一環で、バス停の混雑度の予測を、過去の混雑度のデータを使って自動的に導出するアルゴリズムを作り、itocon に実装していただいております。私は、このアルゴリズムを、数学の統計という分野の知識を使って構築しました。

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数学物理現象を記述する数式の世界

藤井 幹大

わたしたちの暮らしを支える多くの技術は、自然界で起こる様々な現象を人類が理解することによって発展していきました。科学の加速的な発展は、複雑な物理現象を理解しやすい数式という形で明瞭化し、定量的な予測を可能にしたことによるところが大きいと考えられます。多くの場合、この物理現象を記述する数式は、高校数学で学ぶ微分を用いた微分方程式という形の数式で表現されます。そのため、多くの物理現象が微分方程式のもつ数学的側面から理解されてきました。数理学府 博士後期課程の藤井さんは、空気や水など流体の運動を記述するナビエ-ストークス方程式について研究しています。微分方程式の魅力や最近得られた研究成果について藤井さんに解説していただきます。

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数学最小限の測定データから有用な遺伝子を見出す

沖永 悠一

遺伝子は、しばしば「生命の設計図」とも呼ばれるように、そこに書かれた情報をもとにタンパク質が合成され、生物の様々な性質や機能が現れています。そのため、どの遺伝子が作用して、どのような性質 (形質) が現れているのかを同定することができれば、体質や病気のかかりやすさなどを調べることができます。しかし、この同定には、いくつかの難しいポイントがあります。まず、調べるべき遺伝子の数が現実的な測定データの数を大きく上回ってしまうこと、そして、遺伝子は他の複数の遺伝子と相互作用して、複雑に関係しあっていることです。そこで、沖永悠⼀さん (研究当時、数理学府数理学専攻 廣瀬研究室 修⼠課程) と九州⼤学マス・フォア・インダストリ研究所の廣瀬慧准教授は、⿓⾕⼤学農学部の永野惇准教授、 兵庫県⽴⼈と⾃然の博物館の京極⼤助研究員、トヨタ自動車株式会社の近藤聡⽒との共同研究で、相互作用する遺伝子の繋がりを考慮した擬似的な測定データをランダムに生成し、どれほどの測定データがあれば十分な精度で遺伝子の同定が可能かを計算しました。

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数学数理モデルが明らかにする情報と人々の動き

吉田 明広

Web サイトが魅力的なものかどうかを示す指標として「アクセス数」や「平均滞在時間」などがあります。SNS においては「いいね」の数が多いほど、多くの人々の目に留まったことを示しているでしょう。仮に「アクセス数」が少ないとしても、特定の人々に対しては非常に魅力的な Web サイトである場合もあります。数理学府 数理学専攻 藤澤研究室の吉田さんらは、ヤフー株式会社との共同研究で、ネットサーフィンをするユーザーの動きをグラフ理論・数理最適化・統計学を用いて解析し、Web サイトの新たな魅力度を表す指標を提案しました。本指標により、各ユーザーに価値のあるコンテンツ (つまり「おすすめ」) の提供が、より効果的に行えるようになると考えられます。また、Web サイトの解析に限らず、吉田さんらは、実社会の様々な問題の解決に数理最適化などの数学を用いて取り組んでいます。その一例として、自転車シェアリングサービスの自転車再配置最適化の研究を後半で紹介します。これらの技術は、超スマート社会 (Society 5.0) の実現に向けたコア技術として注目されています。

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数学素数の近似公式を果たす「ゼータ関数」

アデ イルマ スリアジャヤ

「素数」と聞くと、わたしたちの生活とかけ離れたもののように思われるかもしれません。しかし、実は情報社会が成り立つためには素数が無くてはならない存在であり、通信の安全性は素数によって保たれているのです。本稿では、そんな素数が魅せる不思議な世界について数理学研究院のアデ イルマ スリアジャヤ先生に解説していただきます。素数とは何なのか? どれくらいたくさんあるのか? という素朴な疑問からはじめて、「素数の分布」と数学界の未解決問題「リーマン予想」のつながりや先生ご自身の研究に至るまで、ワクワクするような数学の物語へと飛び込んでみましょう。

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数学数学で導くハイブリッド車の最適な制御

立岩 斉明

ハイブリット車の開発現場では、モデルベース開発 (MBD) が主流となっています。MBD ではシミュレーション上に車を再現して、テストコースを走行させることで燃費性能を測ります。その際に、車の性能を最大限に引き出すようにシミュレータを制御することが重要となります。従来はシミュレータの制御法を人の手でチューニングしており、シミュレータの一つ一つに対して手作業で制御を最適化してきました。しかし、この方法にはかなりの時間がかかり、またシミュレータが新しくなるごとに再調整しなければならないという問題を抱えていました。そこで我々は、シミュレータ制御の最適化を「グラフ上の制約付き最短経路問題」という数学の問題に焼き直し、その問題を解くプロセスを自動化することで、従来よりも高速で汎用的なアルゴリズムを開発しました。

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数学世界初!60次元の格子暗号を解読

高木 剛

格子暗号は次世代国際標準暗号の有力候補です。その安全性評価のため2016年6月にスタートした暗号解読コンテストで、世界で初めて60次元の格子暗号問題を解読しました。総当たり方式ならば解読までに一万年以上かかる問題を、効率的な手法により約16日で解くことに成功しました。

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数学ビッグデータ処理で世界1位

藤澤 克樹

大規模なグラフを処理するソフトウェアを独自に開発し、「京」コンピュータやTSUBAME2.5などの様々なスーパーコンピュータ上でビッグデータ処理性能を計測するGraph500及びGreen Graph500ベンチマークテストを実施した結果、両者において世界1位となりました。

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数学計算機との上手なつきあい方

横山 俊一

海外で利用が進む計算代数システムMagmaの日本での普及に向け、Magmaに関する研究集会が10月に九州大学伊都キャンパスで行われた。そこで、主催者の一人である数理学府の横山さんにMagmaが数学の研究でどのように使われ、どのように役立つのかを、フェルマーの最終定理の証明を題材に説明してもらった。

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数学ゼータ値巡回和の代数的証明

田中 立志

多重ゼータ値の間には巡回和公式と呼ばれる公式が成り立つことが知られているが、その証明方法はこれまでひと通りしか知られていなかった。本研究では、この巡回和公式を代数的に捉え、“川島関係式”と呼ばれる公式に帰着させることで解析法によらない普遍的な証明を与えた。

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数学素数が素数でなくなるとき

吉田 学

素数は数の性質を考える上でとても重要だが、実はどのような数の集合の中で考えるかで素数であるかないかが変わってしまう。数理学府の吉田さんは、素数が素数でなくなる度合いを表す手法の1つを洗練し、より正確な度合いの測定を可能にした。

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