令和 6 年 8 月に理学研究院 地球惑星科学部門の川村 隆一 教授らの研究グループは、『太平洋十年規模変動と同期する東アジア全域の台風による極端降水の近年の増加が明らかに~台風災害のリスクアセスメントに貢献~』のプレスリリースを行いました。
本研究は、1979 年から 2021 年のデータを解析し、西太平洋における台風とそれに伴う降水パターンの変化を調べました。特に、1997 年以降の太平洋十年規模振動の負の位相への移行が、東アジアでの台風関連の極端降水を増加させていることを明らかにしました。西太平洋の海面水温の上昇が、太平洋高気圧を強化し、台風の移動経路を大陸側に移動させたことが、その要因と考えられます。本研究グループには、呉 継煒さん (博士後期課程 1 年) が現役の学生として参加しており、今回のプレスリリースに至った研究についてお話を伺いました。
- 新しい手法の開発
本研究で、台風本体の降水 (コア降水) と台風の間接的な影響 (遠隔降水) を分離・同定する客観的手法を開発しました。この手法により、台風が直接的および間接的に東アジア各地域の降水量に与える影響を、より正確に解析することが可能になりました。- 何がわかったのか?
研究によると、1997 年以降、北太平洋の気候が大きく変化し、それに伴い東アジア地域で台風による豪雨の日数が 2 倍以上に増えたことが明らかになりました。これは、海面水温の上昇とそれに伴う気候パターンの変化が原因であると考えられます。- なぜ重要なのか?
将来の気候変動シナリオでは、西太平洋の海面水温が上昇し続けると予測されています。このため、台風とその遠隔影響についての理解を深め、今後の減災・防災対策に役立てる必要があります。
呉さん:
今回の研究では、いくつか非常に興味深い発見がありました。特に、台風による極端な気象現象に関する新しい知見を得ることができました。これにより、台風の活動と太平洋の海面温度との関係について新たな理解が深まり、海洋、気候、そして天気現象の複雑なつながりを改めて実感しました。もちろん、これらの現象について完全に明確な説明をするのは難しいですが、探索していく過程自体が非常に面白いと感じています。
普段の研究では、時々最新の研究成果を読み、自分の研究課題に役立つ情報がないかを探しています。これは、研究の進展にとって非常に必要であり、また多くの新しいアイデアを得るために極めて有益だと感じています。日々の研究活動では、気象データを可視化して天気の現象を観察・分析し、さらに気象モデルを使用してこれらの現象をシミュレートし、より詳細な理解を深めるよう努めています。
今の研究は、九州大学のスーパーコンピュータ「GENKAI」を用いて、地球温暖化シナリオにおける台風のシミュレーションを行っています。このような先端技術を駆使することで、未来の台風活動への理解がさらに深まることを期待しています。
川村教授:
大気や海洋は固体地球の表面を覆っている薄い流体層に過ぎません。ただ流体の振舞いは一見すると全く無秩序に見えますが、支配的な規則に則って (決定論的に) 運動しています。その法則性をカオスの海 (カオスの空?) から見つけ出すのが大きな謎解きであり、大変魅力的な作業です。呉君は、台風の遠隔降水を同定する客観的手法を開発して、台風による極端降水が近年の気候変動と同期して災害リスクを増大させていることを見出しました。
地球温暖化が進行していく近未来の地球環境の下で、私たちは極端な気候変動や台風・爆弾低気圧・集中豪雨などによる甚大な気象災害に向き合っていかなければなりません。気象学・気候力学は益々重要な研究分野になっていきます。一方では、気象学・気候力学の観点から「地球の不思議」を明らかにする試みは、皆さんの「地球観」を育む営みでもあります。地球を「俯瞰する」見方はきっと皆さんの人生の大きな糧となるでしょう。私たちと一緒に気象や気候の謎解きに挑戦してみませんか。
より詳しく知りたい方は・・・