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赤ちゃん星の"くしゃみ"を捉えたか?(

アルマ望遠鏡が目撃したダイナミックな磁束放出

著者

 令和 6 年 4 月に理学研究院 地球惑星科学部門の町田 正博 教授、徳田 一起 特任助教らの研究グループは、『赤ちゃん星の"くしゃみ"を捉えたか? ~アルマ望遠鏡が目撃したダイナミックな磁束放出~』のプレスリリースを行いました。

《研究の概要・ポイント》
 宇宙に漂う星と星の間は完全な真空ではなくわずかながらガスが漂っており、さらには磁力が働いています。太陽のような恒星 (星) の元となる主な材料は水素分子ガスであり、特にガスが濃く集まった場所は星の卵と呼ばれます。この星の卵が重力で一箇所に集まり星へと成長しますが、ガスと一緒に運動する磁束 (磁力の強さと方向を線の束で表したもの) の大部分は星に持ち込まれずに途中で放出されなければなりません。しかし、この磁束放出の仕組みがこれまでよく分かっていませんでした。南米チリのアタカマ砂漠にあるアルマ望遠鏡で成長途中の赤ちゃん星を観測した結果、ダイナミックに磁束を放出したと思われる痕跡が初めて見つかりました。これは、人間が「くしゃみ」でほこりやウィルスを吐き出す様子とよく似ています。この赤ちゃん星の「くしゃみ」を詳しく調べると、星や惑星の誕生の秘密がさらに明らかになると期待されます。

 本研究グループには、所司 歩夢さん (博士後期課程 1 年)、野﨑 信吾さん (博士後期課程 1 年)、大村 充輝さん (修士課程 2 年) が現役の学生として参加しており、今回は、プレスリリースに至った研究について 3 名にお話を伺いました。

町田 正博、徳田 一起(⼤学院理学研究院 地球惑星科学部門)、所司 歩夢、野﨑 信吾、大村 充輝(大学院理学府 地球惑星科学専攻)

図1
図1 Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

所司さん:
 今回の研究では、原始星 (赤ちゃん星) 周りの円盤で磁束放出現象を捉えた可能性のある棘構造を発見しました。私は普段、観測データに超解像度画像解析法を適用し、円盤の特徴的な構造を探査していますが、棘構造は見たことがなかったので衝撃を受けました。他の天体でも同じ構造が確認できるのかを知りたくなり、観測データの解析にさらに意欲が湧きました。私は天文学の醍醐味は『未知への探究』にあると考えています。そのため、自身の興味に沿って自由に研究を行える環境で、支援を受けられることに大変感謝しております。

図2

野﨑さん:
 私は普段、数値シミュレーションを中心に研究を行っていますが、今回の研究では理論研究の手がかりをもとに観測結果と比較する楽しさを実感しました。特に、スーパーコンピュータで計算した赤ちゃん星に見られる『棘 (とげ) 』のような構造が、実際の観測でも確認できたことには非常に驚きました。私たちの研究室は、星や惑星の形成過程に関する理論と観測の両方の研究ができる環境が整っており、今回の成果はその強みを十分に活かしたものだと感じています。この経験を活かし、今後も星の誕生の解明に貢献できるよう、理論と観測の両側面から日々の研究に取り組んでいきたいと考えています。

図3

大村さん:
 磁束放出の観測的証拠がこの研究の重要なポイントですが、想像図にあるような磁力線を直接発見したわけではなく、見つけたのは磁束と共に飛び出したと思われる円盤のガスや塵の残骸です。それでは、どうすれば磁力線を見ることができるのか? そのヒントは光の偏光にあります。私は、磁場の影響で生じる偏光のいくつかの機構に興味を持ち、それを利用して磁場の強度や磁力線としての形状を推定する方法について考え、観測データの解析・理論計算との比較を行っています。今後、円盤の端で今回の結果に似た構造と、それに対応する偏光を観測することができれば、磁束の放出の物理過程や、円盤の環境について詳細に調べることができるのではないかと期待しています。これからも理論と観測の二刀流で、新たな発見を追求していきたいです。

図4

指導教員からのコメント

町田教授:
 研究に携わった 3 名の学生は、それぞれ異なる手法で星と惑星の誕生についての研究を行っています。所司君は、観測データに超解像度画像解析という手法を適用して惑星が誕生する現場を調べています。野崎君は、大規模数値シミュレーションを用いて、星の誕生の母体となる分子雲や分子雲コアの進化を調べています。大村君は、観測的可視化という手法によって数値シミュレーションと観測データを比較しています。3 人とも、自身で研究手法を考え、工夫して独自の研究を行っています。今回の研究では、徳田特任助教の主導のもと、異なる手法で研究を行っているこれらの学生が協力し、様々な観点から観測データを精査し議論することで理解が深まり、成果に結びつきました。今回の観測で発見した現象は、星形成の理論研究で 40 年以上前から予言されていたものですが、長い年月を経て実際に宇宙で起こっていることが確認できました。理学の分野では、このように思いもよらない発見がたくさんあります。みなさんも、共に自然や宇宙に関する謎を解明してみませんか。

図5

徳田特任助教:
 実は今回発表した観測データを取得したのは 7 年前です。星の赤ちゃんの円盤から伸びている「棘 (とげ) 」構造の正体がわからず悩ませていました。2022 年に九州大へ着任 (国立天文台より出向) し、町田教授や研究室の学生の理論研究との比較、それらを踏まえた日常的な議論が活気的な着想に至る基盤となったと思います。みなさん自分自身の研究を一生懸命に行うのはもちろんのこと、研究室全体で世界最先端の研究が進められるようにレベルアップができる雰囲気を作っており、私も日々刺激を受けております。

図6

より詳しく知りたい方は・・・

タイトル
Discovery of Asymmetric Spike-like Structures of the 10 au Disk around the Very Low-luminosity Protostar Embedded in the Taurus Dense Core MC 27/L1521F with ALMA
著者
Kazuki Tokuda, Naoto Harada, Mitsuki Omura, Tomoaki Matsumoto, Toshikazu Onishi, Kazuya Saigo, Ayumu Shoshi, Shingo Nozaki, Kengo Tachihara, Naofumi Fukaya, Yasuo Fukui, Shu-ichiro Inutsuka, Masahiro N. Machida
掲載誌
The Astrophysical Journal 965, 99 (2024)
タイトル
赤ちゃん星の"くしゃみ"を捉えたか?
掲載誌
九州大学プレスリリース (2024/04/04)
トピックス
徳田 一起 特任助教、原田 直人さん、大村 充輝さん、所司 歩夢さん、野﨑 信吾さん、町田 教授らの研究グループが、赤ちゃん星の "くしゃみ" を捉えました。(2024年4月12日)
News
Twinkle twinkle baby star, 'sneezes' tell us how you are (2024年5月16日)
研究室HP
惑星系形成進化学研究室