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役立つ大腸菌を創る(

本学学部生が九州大学から初めて iGEM Competition に出場しました。

著者

 iGEMアイ ジェム (The International Genetically Engineered Machine) Competition とは、合成生物学synthetic biologyをキーワードとした、大学生が主体となって世の中の問題を解決するためのアイデアを出し合う国際大会です。最近よく耳にする遺伝子組み替えやゲノム編集などの技術の進歩により、生物や細胞に新たな機能を付け加えたり取り除いたりすることが可能になりました。古くから私たちは品種改良によって長い時間をかけて新たな農作物つくり、生活を豊かにしてきましたが、この合成生物学は私たちの生活の豊かさの向上をさらに加速させます。iGEM Competition でアイデアの提案によく利用される生物は、遺伝子操作を行いやすい大腸菌です。これまでの大会で作成された新たな機能をもつ大腸菌は、環境問題の解決から医療に役立つものまで多岐にわたります。昨年 11 月に iGEM Competition の 2020 年大会が行われ、九州大学で初めてメンバーを募ってエントリーし、Silver medal (銀賞) を獲得しました。現在は、2021 年大会に向けて準備を進めています。

iGEM Qdai チーム(理学部生物学科など)
取材:中島 涼輔(大学院理学研究院)

iGEM Qdai チームのオンラインミーティングにお邪魔しました

 iGEM Qdai チームは、週 2 回程度のオンラインミーティングを行い、次の大会へ向けて準備を進めているそうです。今回は、このミーティングにお邪魔して、取材を行いました。

図1
図1オンラインミーティングの様子 取材した日は、さまざまな活動の担当決めが行われていました。

iGEM Qdai チームには、誰でも参加することができますか?

 どの学部の学生さんでもメンバーになれます。本来、合成生物学は農学の分野なのですが、農学部や生物学科だけでなく工学部の学生も参加しています。そして iGEM Competition では、ただ有益な生物を作り出すだけでなく、どのように実用化するかも考えなければなりません。そのため、幅広い視点が必要になり、各学科の得意分野を生かすことができます。

2021 年大会では、どのようなテーマでエントリーする予定ですか?

 現在テーマを選定中で、以下の 3 つに絞られています。

  1. 一酸化炭素などの毒ガスを検出できる大腸菌 (かつて炭鉱の毒ガス検知で用いられていたカナリアの代用)。蛍光タンパク質で光らせることで、視覚的にも判断しやすくする。
  2. 発電 (代謝により電子を放出) が可能な大腸菌。現在の汚水処理には微生物が利用されているので、そのついでに発電できる可能性がある。
  3. 糖尿病の治療に必要なインスリンは現在大腸菌を用いて製造されている。この生産効率を上げる方法、もしくは体内でインスリンを分泌している細胞の機能を改善する方法を模索する。

 ※ 記事公開時点では、既にエントリーするテーマは確定しています。

図2
図2大腸菌の顕微鏡写真 Wikimedia Commonsより引用。

図3
図3カナリア、浄水場、インスリン注射のイラスト いらすとやより引用。

テーマはどのように選んでいますか?

 最初に一人一つづつ案を考えてきてもらって、そこから皆で話し合って、一つに絞っていきます。実験を行って、iGEM Competition に出場するためにはそれなりにお金がかかってしまうので、クラウドファンディングを行ったり、スポンサーを探したりしないといけません。そのため、一般の方や企業の方が支援してみようと思えるようなテーマになるよう、メンバー全員が意見を出し合って決めています。

普段の活動はどのようなことをしていますか?

 週にミーティング 1 回と勉強会を 1 回行っています。ミーティングでは、例えば経費やスポンサー探しなどについて議論しています。iGEM Qdai チームはまだ非公認のサークルなので[1]九大のクラウドファンディングが使えないという問題があります。そのため、最近の議題は主に「お金をどうするか」のことが多いです。お金のことを気にせず研究・実験を進めていきたいのですが、仕方ありません。勉強会では、メンバー全員の意識合わせ、合成生物に関する知識の取得、iGEM Competition での評価基準の再確認などを行っています。

どのように研究や実験を進めていますか?

 今年度は新型コロナウイルスの影響で、実験室には人数制限があって皆で集まって実験できないような状況でした。来年度はもっと実験ができるようになるといいなと思います。ミーティングもオンラインではなく、早く対面で行いたいです。

iGEM Competition では、どのような審査が行われますか?

 iGEM Competition には、環境やエネルギー、医療などいくつかの研究領域[2]があって、この中から 1 つ選んで審査されることになります。審査には以下のような項目があり、これらの達成度に合わせて金銀銅のメダルが与えられます。

  • 「Judging」では、研究成果のポスター発表を行い、数人の審査員に対して質疑応答をします。前回大会は、オンラインで発表と質疑応答が行われました。
  • 研究の紹介をするプロモーションビデオや Wiki ページ、「Judging」に使用するポスターなどを提出します。
  • 「Human Practice」では、研究テーマに関連する企業を訪問したり、近い分野の研究者の方に話を聞いたりした経験が評価されます。他チームとのコラボレーションなども評価対象です。

    著者前回大会では、近い内容を研究されている東北大学の先生とミーティングすることができました。新型コロナウイルスが蔓延していますが、その結果オンライン環境が充実し、今までお会いする機会がなかった方々とお話しできたのはよかったと思います。

iGEM Qdai チームに所属して、楽しかったことや良かったことはありますか?

  • 最初は「合成生物」というものにあまり良いイメージがありませんでしたが、iGEM Competition に参加してみて、新しい社会を創る可能性を秘めているということがわかりました。
  • いろんなアイデアをインスピレーションできて、楽しい大会でした。
  • 企業訪問したり専門家に話を伺ったりする機会をいただいて、知識が深まりました。
  • 実験をしてみたくて iGEM Qdai に参加しました。新型コロナウイルスの影響で、昨年はあまり実験ができませんでしたが、専門家の方と話ができたのはとても貴重でした。
  • 実用性や新規性も考慮しないといけないので、今後の学部 4 年や大学院での研究の練習にもなりました。

    著者もともとは iGEM の存在を知らなかったのですが、九大に入って存在を知れたのは良かったです。同じ志を持った人たちが集まって、次の大会へ向けて一つのものを創るというのは、とても楽しいです。

逆に、大変だったことはありますか?

  • 新型コロナウイルスの影響で、実験の工程が予定通りに行えなくなってしまいました。普段当たり前のように実験室が使えるのは、ありがたいことなんだということを実感しました。
  • iGEM Competition の提出物の締め切りなどが、大学の忙しい時期とかぶるので大変でした。
  • スポンサー探しが大変でした。お願いのメールをいろいろなところへ送ったのですが、なかなか投資していただける企業さんは見つかりませんでした。

Note:

  • [1] 九州大学では、公認サークルになるためには、サークル立ち上げから少なくとも3年の活動歴が必要になります。
  • [2] Track といいます。前回大会の Track 一覧は、こちら から見ることができます。

より詳しく知りたい方は・・・

受賞情報
iGEM competition 2020「Silver medal」
iGEM Qdai
https://igemqdai.wixsite.com/igemqdai
iGEM
https://igem.org
キーワード
合成生物学、iGEM、大腸菌