サーカディアンリズムを制御する遺伝子としては、cwo遺伝子が非常に重要であることがすでに分かっています。システム生命科学府の伊藤さんらの研究グループは、cwo遺伝子と同じ遺伝子ファミリー“bHLH-ORANGE”に所属する3つの遺伝子が、新たにサーカディアンリズムの制御に関わっている可能性があることを明らかにしました。この研究成果は、Applied Entomology and Zoologyに掲載されました。
バクテリアからヒトに至るまで、多くの生物は約24時間のリズムを示します。このリズムはサーカディアンリズムと呼ばれています。
サーカディアンリズムは、環境に変化がない状態でも維持されるため、生物の体内に生まれつき備わっていると考えられています。たとえばヒトでは、光を遮断した真っ暗な環境でも一定の間隔で睡眠と覚醒を繰り返すことがわかっています。
最近の研究で、サーカディアンリズムはいくつかの時計遺伝子によって制御されていることがわかってきています(図1)。時計遺伝子はショウジョウバエではじめて発見され、それ以来、多くの生物でも類似した時計遺伝子が見つかっており、リズムの形成メカニズムは種を通してほぼ共通であることがわかってきています。
伊藤さんが所属する研究室では、以前の研究でclockwork orange(cwo)という時計遺伝子を発見しました。cwo遺伝子は、E-boxと呼ばれるゲノム配列に結合し、cwo遺伝子自身を含む複数の時計遺伝子の発現を抑制することで、サーカディアンリズムの制御に中心的な役割を果たしています。
cwo遺伝子は、bHLHという領域とORANGEという領域を持った転写因子タンパク質を作るbHLH-O遺伝子ファミリーの一つです。時計機能に関与するbHLH-O遺伝子なので、映画「時計じかけのオレンジ」に因んでcwoと名付けられました。
ショウジョウバエにはcwoを含め13個のbHLH-O遺伝子が存在しています。伊藤さんらの研究グループは、bHLH-O遺伝子の中でcwoと同様の機能を持つ遺伝子があるかどうか、ショウジョウバエの培養細胞を用いて調べました。
実験の結果、cwo以外にSIDE、Mβ、Mγの3つの遺伝子で時計遺伝子の発現を抑制する効果が観察されました(図2)。
bHLH-O遺伝子は一般的に相互に結合して機能します。新たに発見された3つの抑制遺伝子とcwo遺伝子との関係を調べたところ、それぞれがcwo遺伝子と協調して作用する可能性があることが分かりました。つまりこれら3つの抑制遺伝子は、cwo遺伝子と結合することでcwo遺伝子を介して抑制効果を示すのではないかと考えられます(図3)。
今後の展開について伊藤さんは、「体内時計の制御にcwo遺伝子が重要なのはわかっているが、その詳しい制御機構についてはまだ解明されていません。今回の成果を踏まえ、体内時計が安定に時を刻む複雑な機構をさらに明らかにしていきたい」と話しています。
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