地球惑星科学専攻の池上さんらは、太平洋の最北部における、過去15年間の動物プランクトンの変動を調査しました。その結果、特定の動物プランクトンの個体数の変動が、海流や渦といった海洋の流れの変化に対応していることが明らかになりました。この研究成果はJournal of Geophysical Research、Deep-Sea Research IIに掲載されました。
海洋環境が変わるとそこに住む生き物の種類や数も変わっていきます。海洋にはプランクトンという小さな生き物がたくさん住んでおり、食物連鎖のピラミッドを支えています。
プランクトンは海洋の環境変化に敏感で、地球環境変動のモニタリングに役立ちます。また、一部のプランクトンは、炭酸カルシウムや珪酸塩の丈夫な殻をつくります。丈夫な殻は海底の堆積物に化石として保存されるため、化石から過去の海洋環境を調べるタイムカプセルとしても研究されています。
今回、池上さんたちは放散虫類という珪酸塩の殻をつくるプランクトンのグループの種類や個体数の変化を調べ、近年の海洋環境変化との関係を明らかにしました。
太平洋を北へ行くとベーリング海に至ります。アリューシャン列島を挟んだ、ベーリング海と北太平洋は、カニやサケなどの漁場となっている世界屈指の豊かな海です。この豊かな海について、長年にわたり海洋観測研究が行われています。
今回の研究では、図1中に星で示した観測点(ステーションSA)に設置されたセディメントトラップと呼ばれる機器によって1990年から2005年に採集した放散虫類を調べました。
観測点は、西から東へと流れる冷たい亜寒帯海流(青矢印)と、東から西へと流れる比較的暖かいアラスカ海流(赤矢印)の影響を受けます(図1)。これら2つの海流の勢力は経年変動しています。
ステーションSAの放散虫類を調べたところ、暖かなアラスカ海流が強かった時期に、特定の放散虫種の個体数が大きく増加していたことがわかりました(図2)。
海の流れには、アラスカ海流や亜寒帯海流のような大きな流れの他に、数十から数百キロメートルの大きさの渦状の流れがあり、中規模渦と呼ばれています。中規模渦は遠く離れた海域に異なる温度や塩分の海水を運ぶ役目を担っており、海洋環境に変化をもたらす重要な現象として注目されています。
アラスカ半島、アリューシャン列島南岸域で発生した中規模渦は、渦中心に沿岸水を保持して移動することや、渦周辺に南北の流れを生じることにより、沿岸域と外洋域の海水を交換する重要な役割を担っています。今回の研究では、ステーションSAを中規模渦が通過したタイミングが、特定の放散虫種の増加と一致することを示しました(図3)。
放散虫類の殻は海底堆積物中に化石として保存されています。そのため、今回の研究で明らかになった特定の放散虫種の海洋環境変動に対する応答は、海底堆積物を用いた過去の海洋環境変動の解明に役立てることが期待されています。
観測のために、北の海へ1ヶ月以上の航海に出ます。現場での観測やサンプル採集は時に辛いこともあります。しかし、それ以上に船上での多くの仲間や美しい自然との出会いがあり、日常では得られない素晴らしい体験ができます。今回の論文の一つは、船上での出会いから始まった共同研究により実現しました。
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