理学研究院生物科学部門の和田正三特任教授の「日本植物学会賞(大賞)」受賞が決定しました。この賞は植物科学分野において国際的に高く評価された研究を行った者に授与されるもので、和田特任教授による「葉緑体運動の分子機構」の解明と植物学会への貢献が高く評価されました。
植物の葉にある葉緑体は光合成工場として働いています。光合成には光エネルギーを使うため、光の弱い環境では光合成の効率を上げるために葉緑体は少しでも光の強い場所へ移動します。一方で、光が強過ぎると葉緑体は損傷してしまうため、それを避けるために葉緑体は光の弱い場所へ避難します。
このように光の強弱に応じて葉緑体が位置を変える運動を『葉緑体光定位運動』と呼びます。
和田特任教授らは、フォトトロピンというタンパク質が光の強弱を察知し、その情報が葉緑体に流れると、葉緑体運動に特化したアクチン繊維(cp-アクチン繊維)を使って葉緑体が移動することを明らかにしました。
和田特任教授らは、移動する葉緑体の前方にcp-アクチン繊維が形成されることを発見しました。また、フォトトロピンをはじめとした様々なcp-アクチン繊維制御因子を特定しました。これらの研究成果に基づき、「光を察知した情報がフォトトロピンから葉緑体に伝わると、葉緑体の周りにある数種類のタンパク質が活性化され、cp-アクチン繊維の重合が促進される」というモデルを提唱しています(図2)。
フォトトロピンからどのような情報が伝達されるのか、cp−アクチン繊維がどのような機構で葉緑体の運動を制御しているのかは、今後解決しなければならない課題です。
フォトトロピンは葉緑体運動のみならず、光合成の効率化に関わる様々な生理現象を制御することが明らかにされています。今後は葉緑体運動の解析を通してフォトトロピンが作用する分子機構の全貌が解明されることが期待されます。
なお授賞式は、日本植物学会第76回大会(兵庫県立大学書写キャンパス、平成24年9月16日)で行われる予定です。
より詳しく知りたい方は・・・