太陽系は46億年の歴史を持っていますが、地球上の生物には約30億年、私たちの身のまわりで普通に見る生物の祖先はおよそ6億年前までさかのぼることができます。本研究分野では、地球と生物の歴史を理解するために、おもに無脊椎動物を研究対象に、さまざまな地質時代の化石生物の形態進化や古生態について研究をしています。
本研究分野は、総合研究博物館(箱崎サテライト)を研究拠点としてゼミや実験を行っています。博物館には、これまでに研究のために採集された多くの化石コレクションが保管されています。採集されたまま全く手つかずの化石や、研究されたものの再検討が必要な化石もあります。これらの化石標本は、箱崎の博物館の他、伊都キャンパスにある伊都標本資料研究・教育ブランチに収蔵されています。このような化石を収蔵する博物館は、実は古生物学研究にとってネタの宝庫です。先ずはスタートアップとして、これらの化石を博物館標本として使えるように整備・データベース化することから研究を始めます。もちろん、化石が好きで自分自身で研究したいテーマがあれば、それを選んで研究することも可能性としてあります。
現在、日本全国の大学・博物館・資料館等に古生物標本(特に古生物学の文献に記載された証拠標本)の情報ネットワークを構築するプロジェクトを進めています。そのため、1) 古生物デジタル標本の登録・保管・再利用システムの構築、2) 九州大学の地質学・古生物学コレクションの標本整備(キュレーティング)とデジタルアーカイブ化に取り組み、総合研究博物館を拠点とした標本・資料情報の公開や利便性向上など、データベースの研究・開発に取り組んでいます。
個別の研究テーマとして、岩石・木材・サンゴなど、様々な硬さの基盤に穴を穿って生息する特異な穿孔性二枚貝ニオガイ上科に着目し、穿孔機能がどのように獲得され、多様化したのか、個体発生、機能形態、化石記録に具体的な手がかりを求めて研究をしています。
古生物研究において、化石種の記載・分類は重要な作業の一つです。そして、記載分類によって得られた情報をもとに、その古生物の当時の生態(古生態)についての考察や、地球環境の変化に伴う生物の進化について研究を行っています。海洋生物の中でも地質時代を通して主要なグループの一つである棘皮動物類(ウニやヒトデの仲間)を中心として、フィールド調査による産状観察、形態観察、化学分析など多様な手法を用いて、化石種の古生態を復元することを試みています。
また、古生物の生態を正しく理解するためには、現生生物の知識も必要です。そのため、現生生物の試料採集、形態観察、化学分析に加え、ときには飼育実験を行うこともあります。
化学合成生態系とは、深海などの太陽の光が届かない環境にも成立する特殊な生態系です。化学合成生態系では、化学合成細菌と呼ばれる微生物が硫化水素やメタンなどの物質を酸化した際に得られる化学エネルギーをもとに、栄養となる有機物を作り出しています。化学合成生態系と、その周辺環境との生物を介した相互作用に着目し、化学合成生態系における生物活動が、周辺の海洋環境及びその進化史にどのような影響を与えてきたのかを明らかにすることを目的として研究を進めています。有機物量や安定同位体比などの地球化学的な情報と、現生および化石生物の知見を統合することで、化学合成生態系の全体像を明らかにすることを目指しています。