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地球システム化学研究室

スタッフ

  • 山本 順司 教授
  • 荒川 雅 准教授
  • 福山 鴻 助教

目指していること

 当研究室が目指しているのは、地球科学に残された最大の謎の一つ「地球はどのように生まれたのか」を、地球の石ころを使って解明することです。地球の石ころにこだわっている理由は、地球のことを最も良く記録しているのは地球自身だと思うからです。ただし、地表を見渡しても地球誕生時の様子がそのまま残っている場所はありません。しかし、地球の奥底には、地球形成初期から眠り続けている領域が残存しているかもしれません。図1 は、現在の地球を構成する要素がどのように進化してきたのかを表しています。この図によると、地球誕生直後の大イベントであるマグマオーシャンは、大気や海、枯渇マントルから探ることができそうです。また、始源マントルにアクセスできれば、地球の材料となった隕石や小惑星の化学組成を推定できるでしょう。地球は惑星の一つです。それゆえ、地球の成り立ちの解明は、太陽系形成モデルに対して極めて重要な制約をもたらすに違いありません。そして、その制約は他の太陽系や銀河系、宇宙全体の進化や生命誕生の条件を探る議論にも波及していくかもしれません。

図1 地球システムマップ
図1 地球システムマップ

1. 冥王代の地球探査

図2 冥王代と現代の地球断面比較
図2 冥王代と現代の地球断面比較

 あなたは知っていますか?マントルは化学的に 2 つあることを。多くの方は、マントルは全体的にグルグル対流している (全マントル対流である) と考えているのではないでしょうか。おそらくそれは間違いです。浅いマントルから由来する中央海嶺マグマと深いマントルから由来する海洋島マグマはその同位体比が全く異なります。そして、海洋島マグマの希ガス同位体比は太陽風や隕石に似た値を見せます。この事実は、地球形成時の成分が地球深部に残存していることを意味し、地球のマントルは層状マントル対流を維持し続けてきたと考えられます。そのため、海洋島マグマを化学的にもっと詳しく調べれば、冥王代の地球で起こったことや材料となった小惑星や隕石の正体を知ることができるようになるでしょう (図2)。

2. 超深度ボーリングコア

図3 かんらん岩に見られる流体包有物 (秋田県男鹿市で採取) 。写真の横幅はおよそ 0.05 mm。
図3 かんらん岩に見られる流体包有物 (秋田県男鹿市で採取)。写真の横幅はおよそ 0.05 mm。

 あなたは知っていますか?マントルの岩石を採取できることを。かんらん岩だったら簡単に採取できるじゃないって思う方も多いでしょうが、かんらん岩は地殻にも存在するので、それがマントルの岩石であるのかどうか判定するにはその由来した深さを探る必要があります。そこで当研究室では、かんらん岩に適用できる超高精度地質圧力計の開発を進めています。圧力センサーとして用いるのはかんらん岩中に包有されている微小な流体 (流体包有物、図3) の圧力です。この圧力はかんらん岩が地下に存在していた時の深さを反映しているので、それを読みとることができれば、かんらん岩が由来した深さを知ることができます。現在、この手法を用いて、マグマによって地表まで運び上げられたかんらん岩捕獲岩の由来深度を約 0.1 % (例えば 30.00 ± 0.03 km) という驚異的な精度で推定できるようになっています。この手法の改良は、地球深部の解像度を向上させていくことでしょう。

3. 全球炭素循環学

 あなたは知っていますか?地表の炭素量は一定ではないことを。大気中の二酸化炭素量は地球史を通して減り続けていますが、地表全体の炭素量は火成活動を通して増え続けていると考えられています。しかし、地表から地球内部へ戻る物質の流れが地表の炭素量を減らしているかもしれません。当研究室では、このような地球全体を包含した炭素循環系を全球炭素循環系と名付け、その定量的な解明を目指しています (図4)。注目している場所は日本直下のようなマントルウェッジです。上の写真 (図3) のようにマントルウェッジ由来のかんらん岩には二酸化炭素を主成分とする流体包有物が広範に見られます。このような炭素物質の起源が分かれば全球炭素循環系のミッシングリンクを解消できるかもしれません。当研究室では、流体包有物一つ一つの同位体組成を非破壊で分析できるラマン分光質量分析法の開発を進めています。開発に着手した 20 世紀末から随分年月が経ちましたが、ようやく天然への応用に挑戦する段階に到達しました。今後、マントルウェッジにおける炭素の起源と分布量に加え、上昇速度の推定に成功すれば、全球炭素循環系を定量的に議論できるようになるでしょう。地球表層の炭素が永続的に増え続けるとわかったら、あなたはどうしますか?

図4 人間圏を取り巻く 2 つの炭素循環系 (青文字と赤文字) と 6 つの脅威 (黄土色文字)
図4 人間圏を取り巻く 2 つの炭素循環系 (青文字と赤文字) と 6 つの脅威 (黄土色文字)