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錯体物性化学研究室

スタッフ

  • 大場 正昭 教授
  • 大谷 亮 准教授
  • Le Ouay Benjamin 助教
金属錯体は、無機-有機複合体の素性を持ち、その構造と性質の多様性が特徴です。この金属錯体を基盤として、バルクスケールの多核金属錯体や金属錯体集合体(配位高分子)の構造の精密解析と物性・機能の評価を通して、構造と物性・機能の相関を解明し、機能性化合物の開発を進めています。また、人工膜や細胞膜の形成するメゾスケール領域を利用して、金属錯体メゾ結晶の制御形成、膜-金属錯体複合体の開発と機能制御を進め、細胞機能制御の実現も目指しています。

研究内容

 錯体物性化学研究室では配位化合物(金属錯体)を基軸化合物とする「分子集合系」を基盤に、新規集積型化合物の合成と機能・物性の開拓を目指した研究を展開しています。「個々の分子の空間配置を制御して高次組織化し、それらを動的かつ協同的に機能させる」ことは、分子科学における一つの挑戦です。このような分子の高次組織体は、例えば生体系における光合成などの電子移動系や ATPase などの生体分子モーターで重要な役割を担っています。一方、金属錯体は無機化合物と有機化合物の中間に位置する化合物群です。「無機物の優れた単一性能と元素の多様性」と「有機物の優れた分子性・設計性」を分子レベルで融合した金属錯体の集合系では、斬新な立体構造や電子構造を構築が可能であり、従来の有機材料や無機材料単独では実現できない特異な機能・物性が発現します。分子構造ならびに分子集積構造を巧みに制御することで、特異な相互作用空間を構築し、様々な外場(磁場、電場、光、化学物質等)を利用した新現象の発見、新機能・物性の創出を目指した研究を展開します。

研究テーマは、以下の2つを大きな柱としています。

  • 金属錯体分子自体の高次組織化による高度な機能空間の構築
  • 金属錯体分子の複合化による機能性材料の開発

(1)では、ナノサイズの柔軟な細孔を持つ「多孔性金属錯体」(Porous Coordination Polymer (PCP) or Metal-Organic Framework (MOF))に着目して、その骨格構造に磁性、電導性、発光特性や極性を組み込むことで、ゲスト分子と骨格の相互作用を基盤に、分子吸着や吸着分子の細孔内挙動と連動した新規物性の発現を目指しています。例えば、細孔内への分子の選択的吸脱着による磁気特性変換 (Chem. Commun., 57, 5211 (2021), etc.)、柔軟な細孔構造を利用した選択的分子吸着と発光特性変換 (Inorg. Chem., 60, 6140 (2021), etc.)、特定物質に応答するケミカルセンサー (Chem. Commun., 56, 12961 (2020), etc.)などを研究しています。また、金属錯体の集積による極性構造の構築と特異物性の発現 (J. Am. Chem. Soc., 146, 1476 (2024))、金属錯体集積体の相転移挙動の制御と機構解明 (Angew. Chem. Int. Ed., 62, e202306853 (2023), etc.)、配位高分子の結晶格子の負の熱膨張 (Inorg. Chem., 61, 21123 (2022), etc.)、金属錯体を基盤とする分子Spin Qubit 開発などの研究も進めています。

(2)では、機能性金属錯体をポリ酸(POM)、脂質膜、酵素等と複合化して、新規機能性材料の開発を目指しています。例えば、中空構造を有する金属錯体(Metal-Organic Polyhedra (MOP))と酵素の複合化による酵素活性およびリサイクル性の向上 (J. Am. Chem. Soc., 145, 11997 (2023))、MOFと無機層状化合物 MXene との複合化による高感度ケミカルセンサーの開発 (Chem. Commun., Open Access (2024))、親脂質性金属錯体のリポソームへの部位特異的な組込みによる高機能反応場の構築 (Chem. Commun., 57, 2895 (2021), etc.)等を研究しています。

ゲスト分子の吸脱着により磁性をON/OFF可能な多孔性金属錯体(MOF)
ゲスト分子の吸脱着により磁性をON/OFF可能な多孔性金属錯体(MOF)
中空金属錯体分子(MOP)と酵素の複合体
中空金属錯体分子(MOP)と酵素の複合体