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分子触媒化学研究室 I

分子触媒化学研究室 II

スタッフ

  • 末永 正彦 講師
第1の研究対象は分子モデリングと計算化学ソフトウェア (TINKER, MSMS, Firefly Gamess, MOPAC, Gaussian) のためのGUI (Graphic User Interface) の開発です。2004年以来、GUIソフトウェアとして Facioを開発を続け、理論化学の研究・教育のためにフリーウェアとして公開してきました。このソフトウェアは、教育目的のために有用なだけでなく、研究面においてはFMO法 (Fragment Molecular Orbital) という計算手法のための入力ファイル作成および計算結果の可視化に不可欠なソフトウェアです。第2の研究対象は有機化学における基礎的な概念、例えば立体障害や古くからいわれている反応機構などをNBO法 (Natural Bond Orbital) で再考することです。理論化学でよく使われる分子軌道法はいろいろな性質を分子全体としてみるのに対し、NBO法では局所的な相互作用を抜き出してみることができるので、これを用いて研究を行っています。

II-1. 分子モデリング、理論化学計算の可視化のためのGUI (Graphic User Interface) の開発

Grubbs触媒 (第2世代) の分子モデル
Grubbs触媒 (第2世代) の分子モデル
分子表面にマッピングしたアズレンの静電ポテンシャル
分子表面にマッピングしたアズレンの静電ポテンシャル
ベンゼンの分子軌道 (#12から#31まで)
ベンゼンの分子軌道 (#12から#31まで)

 FMO (フラグメント分子軌道法) とは、タンパク質のような非常に大きな分子システムを小さなフラグメント (タンパク質の場合はアミノ酸残基に相当) に分割してフラグメント間の相互作用を計算する手法です。

フラグメント間相互作用をみるための機能
フラグメント間相互作用をみるための機能
局所構造をみるための機能
局所構造をみるための機能
フラグメント間相互作用の二次元表示
フラグメント間相互作用の二次元表示

 私は、これまで開発してきた分子モデルと計算化学のための統合環境Facioに、FMOのためのGUIを実装しました。これにより、FMO計算のための入力ファイルの作成が非常に簡単となり、また、計算結果が可視化できるので結果の理解が容易になります。

II-2. NBO (Natural Bond Orbital) 法による有機化学においてよく知られている概念の再考

II-2.1 Diels–Alder反応のエンド則における二次的軌道相互作用について

遷移状態付近で考えられている軌道の相互作用
遷移状態付近で考えられている軌道の相互作用
遷移状態近傍でのNBO相互作用
遷移状態近傍でのNBO相互作用
NBO相互作用の合計 (kcal/mol)
NBO相互作用の合計 (kcal/mol)

 NBO法によると、いわゆる二次的軌道相互作用 (SOI, secondary orbital interaction) は1.49 kcal/molであり、これはNBO間の相互作用のたった7%に過ぎません。これに加えて、多くのNBO相互作用は、一次的軌道相互作用 (POI, primary orbital interaction) よりも小さいがSOIよりも大きいものがあります。従って、Diels–Alder反応においてendo体が速度論的に有利である原因は、SOIだけに帰されるものではないと思われます。

II-2.2 trans-2-ブテンの方がcis-2-ブテンよりも熱力学的に安定である原因

 cis異性体における2つのメチル基の立体反発により、trans異性体は熱力学的により安定であると一般的には考えられています。

 しかし、Natural Steric Analysis (右の表) によるとcis体の立体反発はCsp2-Csp2-Csp3の結合角が125.3° (仮想的なcis-2-ブテン) から128.4°と大きくなることにより軽減されているように思われます。

NBO間の立体反発エネルギー (kcal/mol)
NBO間の立体反発エネルギー (kcal/mol)

 実際、近接するメチル基の水素の間の立体反発は1.88 kcal/molで、これはその他のNBO間の立体反発、例えばcis体のσ(CC)-σ(CH) (8.23) やtrans体のσ(CH)-σ(CH) (11.19) よりもかなり小さい値です。

QTAIM解析で得られた<i>trans</i>異性体を基準とした原子エネルギー (kcal/mol)
QTAIM解析で得られたtrans異性体を基準とした原子エネルギー (kcal/mol)

 QTAIM (Quantum Theory of Atoms in Molecule) 解析によると、近接した水素原子の原子エネルギーは負の値 (−3.14) で、これは2つの原子間に反発ではなく吸引的な力が働いていることを示しています。一方、中央のsp2炭素は、大きな正の値ですが、これはメチル基の反発を避けるために変形したことで生じた歪みエネルギーがsp2炭素に貯まってしまったと解釈できるのではないかと思われます。