理学研究院生物科学部門の坪井研究員らによる論文の「2012年度JPR論文賞 Best Paper Award」受賞が決定しました。論文では、光環境変化に迅速に対応するため、葉緑体は細胞膜上ならどちらの方向にも移動できる事を明らかにしています。この研究成果はJournal of Plant Researchに掲載されています。
植物の中で光合成を行っている葉緑体は、実は動いています。植物の葉に弱い光が当たるとそこに葉緑体は集まり、逆に強すぎる光が当たると葉緑体は逃げるように動きます。このように光の強弱に応じて葉緑体が動く運動は『葉緑体光定位運動』と呼ばれています。
葉緑体光定位運動のメカニズムは徐々に解明が進んでいます。光を感じるもの(光受容体)は青色光を吸収する蛋白質(フォトトロピン)である事や、葉緑体の運動において特殊なアクチン繊維(葉緑体アクチン繊維)が働いていることなどが分っています。
ところで、葉緑体はどのように動いているのでしょうか?
この疑問を解決するために、坪井研究員らは細く絞った青色のビーム(強い光)を植物に照射し細胞内での葉緑体の動きを観察しました。
実験には細胞が大きいシダの前葉体細胞を使い、青色のビームを直径15マイクロメートル(10−6 m)の円形の領域に照射しました。青色のビームを1分間照射すると、葉緑体は約3分以内に逃避運動を開始し、光照射域の外へと移動します。この時、葉緑体は強い光が当たっていない場所への最短ルートを通りました。
青色のビームの照射を止めても、葉緑体は10分くらいの間は逃げ続けます。その後、葉緑体は停止し、元居た場所へ戻り始めます(図1)。
次に、一つの葉緑体の半分だけに強い光を照射する実験を行いました。
葉緑体は強い光を避けるように、光が照射されていない方向へ動きます。その際、葉緑体は(ほとんど)向きを変えることなく光の当たっていない側へ移動します。また、移動の途中で光の当て方を変えると、それに応じて逃げる方向を変えます(図2)。
この実験の結果、葉緑体は細胞内をどの方向へも動くことができ、また動く方向へ向き直さずに動けることがわかりました。
坪井研究員は今後の展望として「葉緑体が細胞内で動くメカニズムや、光受容体から葉緑体へと伝わる信号の実体、その伝達様式などについて明らかにしていきたい。」と話しています。
なお授賞式は、日本植物学会第76回大会(兵庫県立大学姫路書写キャンパス 平成24年9月16日)で行われる予定です。
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