植物の葉は光合成を行う重要な組織であり、さまざまなストレスに耐えられるよう多様な進化をとげている。九州大学の小野田雄介特任准教授ら国内外の28人の研究者グループは、世界90カ所から2819種のデータを収集し、植物の葉の強度を地球規模で解析したところ、種による強度の違いが500倍以上もあり、その傾向は「熱帯ほど葉が丈夫である」という従来の仮説とは異なることを明らかにした。葉の丈夫さの多様性パターンを地球規模で解明した研究は世界初という。Ecology Lettersに掲載された。
植物の葉は、光合成により大気中の二酸化炭素を固定して有機物を生産するという、生物の営みの基盤を担う重要な組織である。
葉はうすく平らであり、光を受けるには都合のよい形をしている。しかし、風雨にさらされ昆虫に食べられるなど周りからのストレスに対しては弱い形である。
そのため葉を厚くしたり堅く丈夫にするなど、形質を進化させてさまざまなストレスから葉を守ることが不可欠となる。
植物は、寒いところや暑いところ、雨が多いところや少ないところなど、地球上のさまざまな場所に生息している。
生息している環境によってストレスの種類や大きさが異なるため、厚さや丈夫さといった葉の形質は種によって大きく変化しているはずである。
例えば葉の丈夫さに関して、「熱帯では温帯に比べ、植物を食べる生物が多いため、葉がより丈夫である」という仮説が20年前に提唱され、多くの研究者によって議論がされてきた。
しかしこれまで、葉の丈夫さがどれくらい多様であるか、なぜ多様なのか、環境にどれくらいの影響を受けるかといったことを地球規模で解析する試みはされていなかった。
小野田特任准教授は、オーストラリアのマッコーリー大学の研究者らを中心とした、国内外の28人の研究者と連携し、世界90カ所から2819種の植物の葉のデータを収集、解析した。葉の丈夫さは、剪断試験、パンチ試験、引っぱり試験の3種類の試験で、葉を壊すのに必要な力として測った(図2上段)。
その結果、葉の丈夫さは弱いものから強いものまで種によって500~800倍もの違いがあることが分かった(図2中段)。この違いは、葉の厚さや光合成速度の種による違い(それぞれ60倍、140倍)よりも大きく、葉の形質の違いをもたらす要因として、丈夫さが非常に重要であることを示している。
葉の丈夫さが大きく異なる原因を解析したところ、葉の厚さや密度よりも、葉を構成している繊維等の質的な違いがより重要であった(図2下段)。つまり、葉を厚くするよりも繊維を多く含むことで、葉を丈夫にしていることが分かった。
緯度や気温、降水量が葉の強度に与える影響について調べたところ、緯度と気温の明確な影響は検出されなかった(図3)。 一方で、降水量の少ない乾燥地では葉が厚くなる傾向があり、強度もそれに伴って増加する傾向が見られた(図3)。
「熱帯では温帯に比べて、植物を食べる生物が多いため、葉がより丈夫である」という20年来の仮説があるが、そのような傾向はないことが分かった。
またこのような気候の影響は限定的であり、葉の丈夫さの違いのうち5~7割は同じ環境に生息する植物の間で見られた。つまり同じ場所で共存している植物の間にも丈夫さに関する様々な戦略があると考えられる。
植物の葉は、様々なストレスに耐えながら環境に合わせて形質を進化させてたくましく生きている。今回の研究で、葉の丈夫さを指標として地球規模で解析を行うことで、葉の多様さとその原因を数値で評価することができた。
小野田特任准教授は「今後は光合成を含め、葉の生産性と耐久性を包括的に明らかにし、生物多様性に関する知見を深めていきたい」と話す。
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