海–陸という極端に異なる二つの環境が交わる場所に位置する海浜林は、海風をはじめとする海洋環境の影響を直接受ける。理学部附属天草臨海実験所の横尾研究生と渡慶次教授は、海浜林の林縁からの距離に応じて樹木の形態が変化することを確認した。Journal of Forest Researchに発表した。
光や水の量、風の強さ、土壌の中の栄養分の量など、植物の成長は周りの環境によって大きく左右される。しかし、植物は、種子が発芽し根や葉を形成した場所からは、自分の意思で移動することができない。そのため植物は、周りの環境にあわせて自分の形を変えることができる。たとえば樹木では、光の量にあわせて枝につける葉の量を変えたりすることが知られている。
これら周りの環境は、場所とともに少しずつ変化していくことがある。これを「環境勾配がある」という。海沿いの林(海浜林)の場合、海側に近い樹木ほど海風などの海の影響を直接受けるが、海から離れるにつれてその影響力が徐々に弱まっていくと考えられる(図1)。このような環境勾配があると、そこに生育する樹木の形も勾配に応じて徐々に変化していく。
しかしながら、林縁から林内までの距離が短い場合(例えば50m以下の時)、環境勾配に応じた樹木の形態の変化を評価するには、非常に高い精度の測定が求められる。そのため、小さなスケールでの環境勾配の影響を調べた研究は意外にも少なかった。
そこで横尾研究員らは、林縁–林内の距離が短い海浜林における樹木の形態変化に関する調査をおこなった。本研究は、有明海の出入口に位置する天草下島の富岡半島にある亜熱帯性海浜林において行われた(図2)。
調査対象の樹木は、林の中でも特に個体数の多いアラカシ、ネズミモチ、トベラの3種とした。これら3種について、4つの形態、1.幹数、2.樹高、3.断面積、4.林冠開放率(光環境の評価)に注目し、海から離れるにつれてどのように形が変化するかを調査・分析した。また、アラカシとネズミモチについては、林縁部と林内における若葉の伸長についても測定した。その結果、調査した3種とも海から離れるほど、
という共通した形態変化が見られた。これは、風の影響が小さくなるほど、幹の数が減って一本あたりの幹が太くなるという先行研究の知見と一致する。また、林冠開放率は林縁部において顕著に大きく、若葉の伸長は、林内部において林縁部よりも大きかった。
以上の結果から、小さなスケールにおいても、樹木の形態に対する環境勾配の影響がはっきりと見られた。横尾研究員は、「個体数の多いこれら3種の形態変化は、この海浜林全体における環境の違いを作り出すため、他の動物・植物にも重要な影響を及ぼすと考えられる。」と語る。
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