宇宙天気の指標である極域の電位差が飽和する現象が知られていたが、その原因は電離圏中の伝導率にあると言われてきた。今回地球磁気圏の数値シミュレーションにより、電位差の飽和現象が、太陽風に伴う磁場と結合した地球の磁力線の輸送が滞ることで起きることを示した。深沢研究員らが、J. Atmos. Sol.–Terr. Phys.に発表した。
地上に住んでいると、夕方から突然雨が降ってきたり雷が鳴ったりと突然の天気の変化に驚くことがある。このような突然の天気の変化は、例えば冷たい風が上空に流れ込んできて、大気の状態が不安定になると起こりやすい。実はこれと同じようなことが、宇宙空間でも起きている。
宇宙空間では、「太陽風」と呼ばれるプラズマの風が太陽から吹いてくる(図1)。太陽風は電気を帯びているため、地球の磁場やプラズマと反応して磁気嵐やオーロラ嵐などさまざまな現象を引き起こす。この太陽風をはじめとした太陽活動の変動が宇宙空間にもたらす影響を、「宇宙天気」と呼んでいる。宇宙天気の変化は、我々人間の活動にも大きな影響を与える。特に磁気嵐は、人工衛星や宇宙ステーションなどはもとより地上での大規模な停電も引き起こすため、太陽風がもたらす影響について多くの研究が行われている。
宇宙天気の研究は、太陽風の速さやプラズマの量、さらに太陽風と反応して変化する地球磁気圏の電流や極域の電位の様子をモニタリングして行われている。このうち地球磁気圏の極域電位差は、太陽風の電場の大きさに比例して増加する。ところが太陽風の電場が大きくなりすぎると、ある一定以上から磁気圏の電位差が大きくならない飽和現象が知られていた。これまで飽和の原因は、地球磁気圏とその内部にある電離圏の間を電気が伝わる率がある一定以上大きくならないことによると考えられてきた。一方で、太陽風の電場の大きさに影響を与える太陽風の速度と磁場の大きさに関しては、あまり考慮されてこなかった。
そこで地球惑星科学科の深沢研究員は、電離圏の影響を排除した時に、太陽風の速度と磁場の大きさの変化が地球磁気圏での電位差に与える変化をコンピュータシミュレーションで検証した。磁気圏の3次元シミュレーションは通常のパソコンでは計算能力が足りず行えないため、スーパーコンピュータ(名古屋大学)を使い計算した。その結果、太陽風の速度の変化では電位差の飽和現象は起きないが(図2左)、太陽風の磁場変動では飽和現象が起こることが明らかになった(図2右)。
磁気圏境界では、太陽風の磁場と地球の磁力線が結合を起こし、それらは太陽とは反対側(夜側)に引きはがされていく。しかし磁場が大きくなりすぎると、あまりに多くの磁力線の結合が起こるため、夜側への移動が間に合わずに渋滞を起こしていることが分かった。図3では太陽風に伴う磁場の大きさが−10nTから−45nTに変化したときの磁力線の変化を示している。−10nTと磁場の力が小さい場合には、Aの領域で結合した磁力線が折れ曲がって、磁気圏磁場の力が小さい部分(濃青色の部分)を図の上へ向かって輸送されている。一方、−45nTと太陽風に伴う磁場の力が大きくなると、磁気圏磁場の力が小さい部分が途中で消えて磁力線がまっすぐにのばされて停滞している。このため、本来上がるはずの電位差もある程度の値で飽和してしまっていることが、数値シミュレーションにより示された。
今回の結果は、磁気圏での電位差の飽和現象が、電離圏からの影響だけでなく太陽風と地球磁気圏の相互作用による磁気圏の構造変化の影響も受けることを明らかにした。深沢研究員は、「太陽風の地球磁気圏に与える影響の理解が進み、大きな電場を伴う太陽風が地球に来た場合に、どのような問題が起こるかなどの予報につながることが期待される」と語る。
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