宙空環境研究センターの池田研究員らは、オーロラ嵐に伴って発生する電磁波を電離圏で捉えることに成功し、その特性を解明した。新たに構築したFM-CWレーダーによる電離圏電場観測システムを利用したもので、電磁波動現象を電離圏で捉えるのは世界初という。Journal of Geophysical Researchに発表した。
オーロラは北極や南極周辺の極域で見られる大気の発光現象である。オーロラの発生には、太陽風によって運ばれるプラズマ粒子と地球磁気圏とが深く関わっている。
地球はもともと磁場を持っており、北極付近と南極付近を貫く線を中心として両側に地球磁気圏が広がる。方位磁石が地球上で常に北を向くのは、このような磁場があるためである。地球磁気圏は、太陽から吹き出したプラズマ粒子の流れによって太陽の反対側(夜側)に引き延ばされ、そこにプラズマ粒子が蓄えられる。このプラズマ粒子が地球の大気圏に向かって落下し、極域のおよそ100kmから500km上空で大気中の粒子と衝突することにより見られる発光が、オーロラである。さらに、蓄えられていたプラズマ粒子が何らかの理由で突然解放されると、オーロラの光が非常に明るくなり激しく動きだす。この現象はオーロラ嵐と呼ばれ、テレビなどでよく見られるオーロラの映像は、このオーロラ嵐をとらえたものである。
電荷を持つ物質が作り出す電場と、磁場が相互に影響し合うと、電磁波と呼ばれる波が発生する。プラズマ粒子の電荷と地球の磁場が影響し合って発生するオーロラ嵐は、電磁波が発生されるとともに、人工衛星や地上の送電線などに被害をもたらす可能性があるため、近年活発に研究が進められている。しかし、何が引き金となってオーロラ嵐が発生するのか実はほとんど分かっていない。
オーロラの発生に伴い発生する周期40~150秒の電磁波は、Pi2と呼ばれる(図2、図4)。Pi2は、普通はオーロラが見られない日本や赤道域などの地域でも幅広く観測され、50年以上も前からその存在が知られていた。しかし、地上では磁場の観測のみが先行し、電場の観測が充実していなかったため、Pi2の特性を解明する研究はあまり進んでいなかった。近年では衛星による電場の観測(高度1000km以上)が進んできたものの、国際宇宙ステーションが飛翔するなど人間にとって重要な電離圏(高度100kmから500km)では、衛星の姿勢制御の難しさから電場の観測が困難であった。以上のような状況から、Pi2という電磁波の理解には限界が来ていた。
そこで池田さんらは、九大宙空環境研究センターのプロジェクトの下、FM-CWレーダーという電離圏の電場を地上から観測できるシステムを構築した(図3)。ロシアに設置されたこのFM-CWレーダーによって、世界で初めて地上でPi2の微小電場変動を捉える事に成功した(図4)。得られたデータを元に電場変動と磁場変動の比較をしたところ、Pi2の電場と磁場の変動には時間的にずれがあり、両者の相互作用からPi2電磁波は進行しない波(定常波)となっていることが分かった。Pi2は世界中の広い範囲で同時に同様の波形で観測される事が知られていたが、それはPi2が大規模な構造を持つ定常波であるためと考えられる。このことは、Pi2の発生場所を突き止める手がかりとなり、ひいてはオーロラ嵐の発生場所やその機構の解明につながるだろう。
池田さんは、「電磁波の中には、プラズマに作用し、人工衛星や人体の被曝など人間活動に悪影響を及ぼすものもある。今後、オーロラの発生予測やそれに伴う電磁波の発生予測など、宇宙天気という観点からこれらの電磁波動についての研究を進める計画である。」と話す。
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