高等植物の葉緑体は、葉が発生して成長するのにともない原色素体という未分化の細胞から分化する。その分化過程のうち、進行が速すぎてこれまでよく観察できなかった葉緑体分化の初期段階を、イネの幼苗をもちいることで段階的に観察することに成功した。生物科学部門の楠見助教らのグループが、Plant Biotechnologyに発表した。
葉緑体とは、植物の細胞内小器官の一つで光合成を行う器官である。独自の葉緑体DNAを持つのが特徴で、核DNAと同じように複製・転写を行う。また、窒素代謝や脂質合成、ホルモン合成など光合成以外にも多くの機能を持っており、植物細胞になくてはならない存在である。
葉緑体は、葉が形成されるときに未分化の色素体である原色素体をもとにして作られる。これを、葉緑体は原色素体から分化するという。葉緑体の分化過程はさまざまな植物で研究されてきており、高等植物では大きく次の3つの段階に分けられると考えられている。
このうち(3)の光合成機能の制御機構に関しては活発に研究されてきた。しかし(1)、(2)の段階は、分裂装置や転写装置、翻訳装置の構築といった個別の過程の研究は進みつつあるものの、全体を統御するメカニズムや制御因子についてはよくわかっていない。なぜなら、以前から研究材料としてよく使われてきたシロイヌナズナやタバコなどでは、葉緑体の分化が短時間に進行してしまい、各段階を分離して観察することが困難だったからである。
そこで楠見助教らは、イネの葉の発生パターンに着目した。イネなどの単子葉植物は、シロイヌナズナなどの双子葉植物と異なり、葉の成長段階がシンプルで観察しやすい。その中でも、イネの葉の形態がもっとも大きく変化するP4ステージとよばれる成長段階で葉緑体の分化を観察した(図1、図2)。葉緑体タンパク質遺伝子の発現パターンを調べた結果、前期、中期、後期にかけて、葉緑体分化の(1)(2)(3)の段階それぞれで機能するタンパク質が順番に観察された(図3のA)。つまり、葉緑体分化の3段階がP4ステージで順番に起ることがわかった(図3のB)。ただし、P4ステージの後期でも光合成活性は成熟した葉より低かったため、光合成の能力が確立されるのはP5ステージ以降だと考えられる。
本研究成果は、イネを用いることで葉緑体分化のそれぞれの段階を容易に収集・観察できることを示す。楠見助教は、「イネのP4ステージの葉が第2段階の葉緑体を多く含んでいることは以前から知っていたが、これほどきれいに分離できるとは思わなかった。」と話す。「現在このシステムを用いて、葉緑体の初期分化段階に特異的に機能する遺伝子の単離と解析を進めている。」
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