地球以外の惑星にも大気が存在し、様々な気象現象が起きていますが、直接の観測が難しいため詳細は未解明です。中島助教は、理研、北海道大、神戸大、松江高専、京都大との合同研究チームの一員として、スーパーコンピューター「京」を使ったシミュレーションで、火星に生じる竜巻の性質を調べています。中島助教に解説していただきました。
地球からの長年の観測や、最近の探査機からの観測によって、火星にも、低気圧や竜巻など、地球に負けずに色々な気象現象が起こっていることがわかってきました。火星の大気が地球の約150分の1しかなく、気象の原動力である日光も、太陽からの距離が遠いので地球よりずっと少ないことを考えると不思議ですね。
研究チームは、火星の気象現象の中でも大きさが小さくて観測が難しい塵旋風に注目しています。運動会の日に校庭の隅で砂を巻き上げているのを、みなさんも見たことがあるかもしれませんが、あれが塵旋風で、英語では dust devil (直訳すると「塵の悪魔」)と呼ばれています。「小さい」と言っても、火星の塵旋風は、地球の塵旋風と比べると、ずっと大きくて強いものがあるのです(図1、図2)。今回の研究では、観測データ不足を克服するために、コンピューターシミュレーションでダストデビルを大量に発生させて、それらの大きさや強さなどの性質を統計的に調べました。
研究には、世界最大級のスーパーコンピューター「京」を使いました。大小様々な塵旋風を十分にたくさん発生させるためには、シミュレーションの精度を高くする(一辺約20kmの立方体空間の中に5mおきに置かれた約500億個の点について、約1/200秒おきに風や温度、圧力を計算[1]していく)必要があり、世界最大級のスパコンが必要だったのです。
図3は、ある時刻の、コンピューター中の火星大気の様子を示しています。地面から加熱されて大気は激しく上下に対流しています。ズームアップすると、大きさも強さもさまざまな渦巻きがたくさん見えます(図4)。これらが、シミュレーションで再現された塵旋風です。中には直径100mを超えるものや、風速20m/sを超えるものもあります。
このように無数の塵旋風があることは、探査機から撮った写真から想像されていましたが、シミュレーションで数多くの塵旋風が詳しく再現できたのは初めてです。この結果をもとにさらに研究していきたいことは、大きく2つあります。1つ目は、塵旋風がどのくらいの砂を巻き上げるか、です。火星では、何年かおきに大量の砂が大気中に巻き上げられて、なんと火星全体を覆いつくしてしまう「グローバルダストストーム」という現象が起こります(図5)。塵旋風は砂の巻き上げ始めに活躍していると思われるのです。2つ目は、将来の火星探査のための、詳しい「天気予報」への応用です。特に、火星に着陸する探査機が、どのくらい激しい風に会う可能性があるかは、探査機の設計にも重要なのです。
地球や火星だけでなく、水星以外の太陽系の惑星には大気があり、それぞれ特色ある気象現象が生じています。金星には日本の探査機「あかつき」が到着して詳しい観測を始めています。また土星の衛星タイタンは、地球よりも分厚い大気を持ち、メタンの「集中豪雨」も降っています。さらに太陽系の外にもたくさんの惑星があり、その大気で起こっている現象も、大きな望遠鏡や人工衛星をいろいろ工夫して使いながら、徐々にわかってきています。このような色々な星の大気の現象を調べることは、地球の過去や未来を見通すことにもつながります。もちろん、どこかに宇宙人(地球外生命体)がいるだろうか、という問いに答えていくヒントにもなるのです。
Note:
より詳しく知りたい方は・・・