相澤助教らの研究グループは鹿児島県の桜島火山で発生する雷(火山雷)を観測しました。高速度ビデオカメラと高速度電磁場観測装置を用いて0.00002秒ごとに火山雷の放電過程を観測し、火山雷は気象雷と多くの類似点があり通常の雷のミニチュアとして理解できること、火山噴煙中の電荷は雷雲中の電荷に比べてはるかに高密度で複雑に分布していることなどを明らかにしました。この研究成果はEarth and Planetary Science Letters、Geophysical Research Lettersに掲載されました。
火山が噴火すると噴煙の中や周辺で雷が発生することが知られています(図1)。火山雷はマグマの性質によらず世界中の火山で発生が報告されていますが、近代的な物理観測が開始されたのはここ10年以内であり、なぜ発生するのか、そもそもどのような現象なのかなど不明な点が多くありました。一方で普段、我々が目にする気象雷は、250年間に渡る多くの研究によりかなり理解されています。観測によって火山雷と気象雷の類似点・相違点を明らかにすることは、火山雷現象解明の近道と考えられます。
火山雷がどのような放電現象であるか解明することを目的として、火口から約3kmの距離から高速度ビデオカメラによる撮影、および高速度電磁場観測を行いました。通常のビデオカメラは1秒間に30コマ程度しか撮影できませんが、高速度カメラの撮影性能は1,000~100,000コマ/秒にもなります。また、研究グループが使用した電磁場観測装置は1秒間に65,546個のデータを取ることが出来ます。さらにどちらの装置もGPS衛星に同期した時刻校正により、正確にいつどのような現象が発生したかを記録可能です。
観測を開始して間もなく、火山雷でも気象雷同様に、リーダーと呼ばれるゆっくりとした放電や、リターンストロークと呼ばれる大放電現象が何度も繰り返すことが分かりました(図2)。ただし火山雷ではこれらの現象は0.01~0.001秒と気象雷の1/10~1/100に相当する短時間で終わっていました。次に高速度カメラの映像と、火山雷による電磁場変動を比較したところ、落雷と雲間放電とで電磁波の波形がはっきり異なることが分かりました(図3)。さらに落雷の電流量は約2000アンペア、放電量は0.05クーロンほどであると計算されました。これらは通常の気象雷の1/10~1/100の値です。また、気象雷と比較して正電荷 (プラスの電荷) を地面に落とすタイプが多いこと(気象雷では全体の10%、火山雷では30%前後)が分かりました。
以上の観測から、桜島で観測された火山雷はその空間・時間スケールが小さいこと以外は気象雷と良く似ており、通常の雷のミニチュアとして理解出来ることが分かりました。スケールの小ささやプラスの電荷を地面に降ろすものが多いという特徴については、火山噴煙中の電荷密度が大きいこと、および、電荷分布が複雑であることが原因と考えれば説明がつきます。また、今回の観測では火口からの噴煙放出とほぼ同時に火山雷が発生する例も多く見られたため、火山灰粒子の衝突によって電荷を帯びる効果だけでなく、火山爆発発生時のマグマの破砕によって火山灰粒子が電荷を帯びる効果も火山雷の発生には重要であると考えられます。
今回用いた電磁場装置は、地形に遮られにくいVLF〜ELF帯の電磁波を計測するため、放電が火口の中や地中で起こっても原理的に観測できます。今後は目で見える火山雷以外に、見えない放電現象の研究が期待されます。火山雷の観測は防災にも役立ちます。火口が目視出来ない場合や、雲に遮られて気象レーダーの精度が落ちる場合でも, 火山雷観測から電磁波源を時々刻々決定すれば、噴煙の規模や高度や向きをリアルタイムで推定することが可能です。今後、恒久的な雷観測ネットワークの構築により、火山噴火モニタリングが行われるかもしれません。また、そうしたネットワークで蓄積されたデータにより火山雷研究が進むことが期待されます。
今回の観測で一番大変だったのは高速度カメラによる撮影です。ただカメラを回し続けておくとあっというまにメモリがいっぱいになってしまいます。そこで観測者が交代で火口を見続け、噴火が発生したら準備を整え、火山雷が発生した瞬間に録画のためのトリガースイッチを押すのです。こうして雷前後数秒の動画をカメラに残すという作業を2週間、昼夜を問わず行いました。今後、記録メディアの大容量化と、雷が発生したら自動でスイッチが押されるよう装置を改良すると、良いデータがより多くとれるようになるでしょう。
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