光合成能が低く未成熟な状態ととらえられてきた発生初期の葉の葉緑体において他組織から供給される栄養分の代謝機能がすでに発達していることが示された。葉緑体分化が損なわれた突然変異株と正常株の間で、葉の炭素・窒素含量が変わらないことから明らかになった。生物科学部門の楠見助教らがJournal of Plant Researchに発表した。
葉緑体は、色素体とよばれる植物の細胞小器官の1タイプである。発生時の葉では未分化の原色素体として存在し、葉の伸長成長とともに光合成能を持つ葉緑体へと機能分化する。
植物の成長に必要な栄養分は光合成によって作られるが、発生初期の葉では葉緑体が未分化のため光合成能が低く、必要な栄養分は他の器官から供給される。成長して光合成能を獲得すると逆に他の器官へ光合成産物や代謝産物を供給するようになる。
発生初期の栄養を供給される側の葉はシンク葉と呼ばれ、栄養を供給する側の葉はソース葉と呼ばれる(図1)。
栄養を供給されるシンク葉の葉緑体は、サイズは小さく内膜構造が未発達で光合成能が低いため、これまでは「機能を獲得する途上の未成熟な状態」としてとらえられてきた (図2A)。
しかし、葉緑体には光合成を行う以外にも、主要な栄養分である窒素・炭素の代謝を制御する機能があり、供給された栄養分の代謝は葉緑体なしでは成り立たない。
はたして、未成熟な状態とされてきたシンク葉の葉緑体は代謝機能も未発達なのであろうか?
楠見助教らは、イネを材料として発生初期の葉における葉緑体の発達段階と炭素・窒素代謝制御との関係を調べた。
葉緑体分化が損なわれた突然変異株virescent-1(v1変異株)と葉緑体分化が正常な株を用いて、発生初期のP4と呼ばれるステージにおける炭素・窒素含量、各種炭水化物含量を測定した。
P4ステージ前期は葉緑体が未分化で光合成能が低いシンク葉の状態にある。もし葉緑体分化と代謝機能の発達に関係があれば、ステージが進み葉緑体の分化が進むにつれて、変異株と正常株の間で炭素含量などに違いがでるはずである。
しかし実験の結果、意外なことにP4ステージの間の炭素、窒素含量や炭素:窒素比の増減パターンは野生株とv1変異株の間でほとんど変わらないことが分かった(図3)。
これまでの研究から、P4ステージの末期には葉緑体の形態はほぼ完成しており、光合成能の指標の一つであるFv/Fm値は成熟葉の半分程度まで上昇することが分かっていたが、そうした葉緑体としての機能分化はこの時期の炭素・窒素代謝にあまり寄与しておらず、光合成機能とは独立に炭素・窒素代謝が制御されていると考えられる。
楠見助教は「葉緑体の機能は多面的であり、それぞれの機能が周りの状況に応じて柔軟に発達しているのだろう」と話す。
楠見助教に今回の研究の感想をお聞きしました。
「葉緑体の発達は炭素・窒素含量に大きく影響すると予想していたので、実験の結果は意外なものでした。」
より詳しく知りたい方は・・・