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ニュートリノ 質量計算が単純化(

余剰次元の影響のもとでのニュートリノ質量の計算の単純化に成功

現在発見されている素粒子の中で、唯一質量の分かっていないニュートリノに関して、余剰次元空間中の重力の影響を考慮したニュートリノ質量の理論値の計算がシンプルに行えるようになった。理学研究院の渡邊さんらが、Physics Letters Bに発表した。

渡邊 篤史(理学研究院 物理学部門 / 現所属:新潟大学)

物質を構成する最小の単位で、それ以上分解できない物質のことを素粒子と言う。かつて物質の最小単位は原子だと思われていたが、その後電子、陽子、中性子でできていることが分かり、さらに現在ではクォーク、レプトンと呼ばれる粒子が素粒子だと考えられている。現在まで知られているレプトンは6種類存在し、そのうち3種類がニュートリノ[1]と呼ばれる素粒子である。

図1

物質は素粒子が結びついてできているため、素粒子同士を結びつける力に関する理論(標準理論)が盛んに研究されている。何かを結びつける力を考える場合、その質量が問題となるが、ニュートリノの質量は観測されていなかったため、質量を持たないと仮定して標準理論は発展してきた。しかし1962年、ニュートリノが質量をもつ可能性が示され、1998年にスーパーカミオカンデを用いた実験によって、ニュートリノに非常に小さな質量[2]があることがほぼ確実となった。

このようにニュートリノに非常に小さい質量があることは分かっているが、実際にどれくらいの質量なのかは分かっていない。ニュートリノの質量の発見は、ニュートリノに質量がないという前提で考えられてきた標準理論に修正をせまり、標準理論をこえる新しい物理の重要な手がかりとなるため、非常に注目されている。

一方、物質の質量とそこに働く力を説明することは、物理学の根幹をなす研究である。当初、空間を表す3次元に、時間を加えた4次元で研究が行われていたが、それでは素粒子の存在や、素粒子同士を結びつける現象のすべてを説明できなかった。そこで、我々が観測できる4次元ではない次元(余剰次元)があると仮定すると、我々が観測できるすべての力をうまく説明できる可能性が出てきた。

ニュートリノの質量が非常に小さいことも、余剰次元を考えたシーソー機構と呼ばれる仮説で説明できると言われている。通常、素粒子には左手型と右手型があり、質量は同じである。しかしニュートリノは電荷がないため、左手型と右手型のニュートリノの質量が異なっていても問題ない。そこでシーソー機構では、右手型ニュートリノが通常観測される左手型ニュートリノより重い粒子があると仮定する。右手型ニュートリノが余剰次元を飛び回ると、観測される左手型ニュートリノは非常に軽くなり、観測結果ともよく当てはまる。

図2

そこで理学研究院(現所属:新潟大学)の渡邊研究員らは、シーソー機構を組み込んだニュートリノ質量の計算式を作った。すると従来は非常に複雑であった質量の計算式の簡易化に成功した。ニュートリノの質量は、余剰次元における重力による空間の歪みには依存せずに、4次元空間中の値のみに依存することを示した。

図3

渡邊研究員は、「今回の研究結果によって、より現実に即したニュートリノの質量の計算が、シンプルに行えるようになった。」と語る。「今後、余剰次元とニュートリノの関係を探る研究が活発となるであろう。」

Note:

  • [1] 電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノの3種類。
  • [2] 電子の質量の約100万分の1以下。電子の質量は約0.00000000000000000000000000000091kg。

より詳しく知りたい方は・・・

タイトル
Geometry-free seesaw neutrino masses in curved spacetime
著者
Atsushi Watanabe, Koichi Yoshioka
掲載誌
Physics Letter B 683:289–293 (2010)