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花時計は主要遺伝子が制御(

花の開花・閉花時刻の遺伝的基礎を解明

花粉を運んでもらう動物の活動する時間帯に合わせて花を開く植物では、花を開く時間帯はごく少数の主要な遺伝子で制御されていることが明らかとなった。生物学科の新田学術研究員らが、American Journal of Botanyに発表した。

新田 梢(理学研究院)

花を咲かせる植物では、花が開いている間に雄しべの花粉を他の個体の雌しべに運んで受粉させることが、繁殖を成功させる上で重要である。一方、花を咲かせ続けるには、水分や蜜の補充、呼吸などによって多くのエネルギーを消費してしまう。よって花粉の運搬を花を訪れる動物に頼っている植物では、その動物が活動している時間帯だけ花を開くことで、無駄なエネルギー消費を防ぎ、受粉の効率を高めていると考えられている。

図1
訪花するスズメガ

キスゲ属のハマカンゾウ(Hemerocallis fulva)は、朝方に花が開き夕方に花を閉じるため昼咲きと呼ばれ、昼に行動するアゲハ類によって花粉が運ばれる。一方、ハマカンゾウのような祖先種から進化したと考えられる近縁な種のキスゲ(H. citrina)は、ハマカンゾウとは逆に夕方に開花し翌朝に閉花するため夜咲きと呼ばれ、夜行性のスズメガ類によって花粉が運ばれる。中途半端な時間に咲いてしまうと昼行性と夜行性のどちらの動物にも花粉を運んでもらえないため、2種が開花している時間はほとんど重複していない。そのためハマカンゾウからキスゲへの進化が起こったのであれば、昼咲きから夜咲きへ「飛躍」しなければならない。このような劇的な変化が起きたのは、開花・閉花の時刻がそれぞれごく少数の主要な遺伝子で決定されていたためと考えられる。少数の主要な遺伝子で決定されていれば、その主要な遺伝子が突然変異するだけで開花・閉花の時刻は大きく変化する可能性がある。しかし、開花・閉花の時刻を決定する遺伝的メカニズムはこれまでよく分かっていなかった。

図2

そこで新田さんらは、開花時刻と閉花時刻の遺伝的基礎を知るために、ハマカンゾウ、キスゲと、2種を掛け合わせた雑種を用いた実験を行った。もし開花時刻が少数の主要な遺伝子で決定されているのであれば、雑種同士を掛け合わせたF2雑種[1]で朝に開花する個体と夕方に開花する個体に分かれるはずである。

実験の結果、F2雑種の開花時刻は朝と夕方に集中し、朝に開花する個体と夕方に開花する個体の比率は1:1からずれてはいなかった(下図参照)。よって、開花時刻は主要な1個の遺伝子によって制御されていることが示唆された。一方、閉花時刻については、ほとんどの雑種は夕方に閉花し、F2雑種でも多くが夕方に閉花した。F2雑種では、夕方に閉花する個体と朝に閉花する個体の比率は3:1からずれてはいなかった。よって、閉花時刻は、開花時刻を制御する主要遺伝子とは別の主要遺伝子によって制御されていると示唆された。

図3

予測通り、ハマカンゾウとキスゲの開花・閉花時間は少数の遺伝子によって制御されており、これが昼咲きから夜咲きへ「飛躍」した進化を起こす可能性があることが分かった。新田さんは「この研究結果をもとに、植物がどのようにして決まった時刻に開花・閉花しているのか、より具体的な分子メカニズムの解明が期待される」と話す。「そのために、開花時間の異なる突然変異体を得ることが今後の研究に重要であろう。」

Note:

  • [1] F1雑種とは、ハマカンゾウとキスゲを掛け合わせた雑種。F1雑種同士を掛け合わせたものがF2雑種。

より詳しく知りたい方は・・・

タイトル
Variation of flower opening and closing times in F1 and F2 hybrids of daylily (Hemerocallis fulva; Hemerocallidaceae) and nightlily (H. citrina)
著者
Kozue Nitta, Akiko A. Yasumoto, Tetsukazu Yahara
掲載誌
American Journal of Botany 97:261–267 (2010)
研究室HP
生態科学研究室