氏名 | Bさん |
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学科・専攻、学年 | 地球惑星科学専攻 修士課程1年 |
留学先(国名) | Southwest Research Institute, Boulder Office(アメリカ) |
留学期間 | 令和6年8月18日 ~ 令和6年9月25日 |
今年の夏季休暇を利用してアメリカ・コロラド州ボルダーにあるSouthwest Research Institute (SwRI), Boulder Officeにて研究インターンを行った。今年の5月に日本で行われた学会でDr. Scot Rafkinと出会い、彼との議論を通じて夏の間彼の元で火星大気シミュレーションの研究を行うことが決まった。
Scotは火星(惑星)の下層大気シミュレーションのスペシャリストで、彼ともう1人の火星(惑星)大気シミュレーションのスペシャリストであるDr. Victoria Hartwick、九大の指導教員であるHuixin Liu先生を交えた4人体制でNASA Ames Mars GCMのシミュレーションデータの解析を行なった。帰国後も彼らとの共同研究を進め、修士課程在籍中に成果を論文にまとめ学術誌に投稿する予定である。
Scotが学会に参加し不在だった1週間の間に、昨年からずっと憧れを抱いていたコロラド大学ボルダー校にある大気・宇宙物理研究所(LASP:Laboratory for Atmospheric and Space Physics)に足を運び、火星大気研究者との交流・議論を楽しんだ。LASPは私が研究に使用しているMAVEN衛星の研究・ミッションの中心・運営拠点で、多くのMAVEN関係者が在籍しており、私にとっては夢の国のようであった。昨年学部卒業時にアメリカ大学院のPhD課程に出願する際(不合格だったが)から片想いをしていたDave Brain教授をはじめとする火星大気研究者と会い、議論を交わすことができとても有意義な滞在となった。彼らのもとで火星大気研究を深めるべく、修士卒業時に再度コロラド大学ボルダー校のPhD課程に出願しようという意思がより強固なものとなった。
研究以外にもとても学びの多い滞在となった。詳細は後述するが、渡米直後は強くカルチャーショックを感じ、本気で日本への早期帰国を考えるほどであったが、時間が経つにつれ人は慣れるもので、帰国時にはコロラドが恋しくなっていた。
アメリカの中でもコロラド州、特にボルダー・デンバー・ロングモントに限った話になるが、とても気さくで親切な方が多かった。研究所があるボルダーから車で30分ほどの距離にあるロングモントというところで部屋を借り、Scotの家と近かったため、彼が毎日研究所まで車に乗せてくれた。道中でアメリカや研究について、はたまた私のカルチャーショックへの対処法まで様々な際を楽しみ、彼は私のボスとしてだけではなくまるで父親のような存在であった。
コロラド州の大部分は標高が高く(ボルダーは約1600m)、1年を通して晴れて乾燥している日が多いため、現地の人々は休日にはハイキングやアウトドア、ランニングをすることが一般的のようであった。そのためか、彼らは常に穏やかで親切であり、街中でも山や自然への思いやりを強く感じた。私も彼らのように、時間ができるとハイキングやランニングをするようになり、因果は定かではないが以前より自分や周りに対して優しく余裕を持てるようになったように感じる。
また、休日に訪れた研究所のパーティやMLB観戦を通じ、アメリカンな楽しみ方、息抜きを知ることができた。彼らは休むときは思い切り休み、楽しむときは子供のように無邪気に楽しんでおり、私はその雰囲気がとても好きになった。
留学前は国外で長期間過ごしたことがなく、日本の物差しでのみ物事を判断することしかできなかったが、本留学を通して様々なこと(時には怖いことも)を経験でき、幾ばくかは視野が広がったように感じる。
研究面では特にScotやVictoriaから良い影響を受けることができた。彼らはいうまでもなく、アメリカの世界のトップサイエンティストであり、仕事は膨大にあるはずだが、オンオフの切り替えがとてもしっかりしていた。Scotは朝7時半に出社し、午後4時には帰路に着くという日本では考えられないルーティンを日々繰り返していた。1ヶ月半彼と同じスケジュールで働いた今、九大でも可能な限り朝早くラボに赴き、日が暮れる前に帰宅できるようにしようと思っている。早めに切り上げリフレッシュすることで、次の日のパフォーマンスが上がり、何より何時に変えると決めることで、それまでに仕事を終わらせなければという締切効果により仕事の強度が上がることを実感した。
渡米前は、アメリカやNASA、SpaceXなどの宇宙産業への憧れから、アメリカでPhDを取得し、将来は現地でバリバリ働くと信じて疑わなかったが、 強いカルチャーショックにより、当初はアメリカでの生活に強い不安を感じることになった。
しかし、研究や生活を通じて徐々にアメリカの文化に慣れ、特に現地の研究・生活環境に強く惹かれるようになった。SwRIやLASPの活発でクリエイティブな雰囲気は日本ではなかなか味わえないもので、私の性分に合っていた。そこでは、年齢や肩書に関係なく優れた意見やアイデアが積極的に採用される風土があり、これがイノベーティブたる所以なのだと理解した。生活面では、ロッキー山脈に面した美しいボルダーの街並みに強く惹かれた。豊かな自然と、人間味あふれる地元の方々が織りなす文化、食、芸術は研究の息抜きに最適だと感じた。
一度はアメリカ生活に強い不安を抱き、今もその不安はゼロではないものの、コロラド州・ボルダーはPhD課程進学先の有力候補だと考えている。素晴らしい研究環境、美しい自然と街並み、そして魅力あふれる現地の方々がすでに恋しくなっている自分に驚いている。
渡米前の純粋な憧れから始まり、カルチャーショックによる落胆を経て、現在はその理想的な研究環境や美しい自然・街並みに強く惹かれているように、1ヶ月強の短期留学で、ここまで多くの経験・体験を積めるとは思ってもいなかった。ネットなどでどんな情報でも手に入る時代だが、やはり実際に現地に足を運び生活してみないとわからないことは多く、異国の地に少しでも興味や憧れがあるなら、一度足を踏み入れることを強く勧めたい。想像していたものとはかけ離れた経験をすることも多々あると思うが、それこそが留学の醍醐味だと思う。
今回の滞在で得た様々な経験は、「本当にここでPhDを取得したいのか、他の選択肢を考えてみたほうがいいのではないか」と自問自答するきっかけとなった。この悩みを教授や研究者の方々に正直に話したことで、様々なフィードバックをもらい、現在は「来年コロラド大学ボルダー校のPhDプログラムに出願し、将来はバリバリ火星大気の研究を行う」という明確な意志を持っている。
長くなったが、PhD進学先の相談をした際にある方からいただいた言葉を紹介して終わりとしたい。
「進学先や将来のことで悩んだら、環境や周りの変数を考慮するよりも、その決断によって本当にやりたいことができるのか?と自分に問いかけよう。
If you wonder about the future, you should ask yourself whether you could do what you truly want to do with that decision rather than considering the environments or other variables. 」