HOME > 広報 > トピックス > 2023年2月27日(月)

岡崎 准教授、奈良岡 教授らの研究グループによる小惑星探査機「はやぶさ2」初期分析の研究成果「小惑星リュウグウ試料中の黒い固体有機物」が科学誌「Science」に掲載されました。

  • 2023年2月27日(月)

ポイント

  • 小惑星リュウグウ試料の非破壊分析 (非処理の微粒子分析) と破壊分析 (試料の酸処理によって分離精製した不溶性残渣の分析) をそれぞれ施した結果、リュウグウに含まれている有機物の主要な割合を黒色の固体有機物が占めていることがわかった。
  • 小惑星リュウグウ試料中の固体有機物は層状ケイ酸塩や炭酸塩と共存していたことから、リュウグウ母天体で水、有機物、鉱物との化学反応が起こった証拠を見出した。リュウグウ試料中の有機物の組成は始原的な炭素質コンドライト隕石の有機物と似ているが、リュウグウの方が隕石に比べて有機物の組成に多様性が見られた。この結果は、リュウグウの母天体における液体の水と有機物との反応がさまざまな条件で進行したことを示す。
  • 小惑星リュウグウ試料中の固体有機物に、熱で炭化した痕跡は見られなかったことから、リュウグウの有機物は母天体内部や天体衝突によって高温で加熱されていないことがわかった。
  • 小惑星リュウグウ試料中の固体有機物の同位体組成から、少なくとも一部の有機物は星間分子雲や原始惑星系円盤の外側といったマイナス 200 ℃ 以下の低温環境で形成されたことがわかった。
  • C 型小惑星リュウグウ、D 型小惑星、彗星の有機物との間には共通点と相違点が見出された。このことは、原始惑星系円盤で生じた共通の前駆物質が、それぞれの微惑星 (のちの小天体) に取り込まれた後、それぞれの母天体での化学反応に応じて変化した結果であると考えられる。
  • 本研究の成果から、C 型小惑星の黒い固体有機物をはじめ、生命を構成する成分とは一見無関係のようにみえる形をした有機物が、初期の地球や惑星に大量にもたらされ、ハビタブルな天体の形成に寄与した可能性が新たに期待できる。

概要

 広島大学 先進理工系科学研究科 薮田ひかる教授が率いる固体有機物分析チームは、小惑星探査機「はやぶさ2」が地球に持ち帰った小惑星リュウグウ試料中の固体有機物の化学組成、同位体組成、形態を分析しました。小惑星リュウグウ試料 (200-900 μm サイズの微粒子 37 個) をさまざまな顕微分光法で非破壊分析した結果、試料中の有機物を構成する化学結合の種類と割合は、最も始源的なイブナ型炭素質コンドライト隕石 (CI グループ) や始原的なミゲイ型炭素質コンドライト隕石 (CM グループ) のものに似ていることが明らかとなりました。それらを電子顕微鏡で観察したところ、ナノメートルサイズの球状有機物や薄く広がった不定形の有機物が、層状ケイ酸塩や炭酸塩に隣接した、あるいは混じり合った状態が見出されました。リュウグウの母天体中で生じた二次鉱物との共存状態は、これらの有機物もまた母天体で液体の水と反応して生じた証拠です。リュウグウ試料の有機物には、グラファイトのような秩序だった構造は見られなかったことから、分析したリュウグウ試料の有機物は母天体内部や天体衝突によって高温で加熱されなかったことを意味します。

 また、小惑星リュウグウ試料の同位体組成を測定した結果、重水素および/または窒素 15 が濃集している領域が検出されました。このような同位体組成は地球上の有機物には見られない、数十ケルビン (マイナス 200 ℃ 以下) の低温環境でのみ生じることがわかっています。したがって、分析したリュウグウの有機物はたしかに地球外起源であることが示されたと共に、これらの少なくとも一部の有機物は星間分子雲や原始惑星系円盤外側などの極低温環境で形成されたことが明らかとなりました。

 固体有機物分析チームでは、リュウグウ試料を非破壊分析しただけでなく、リュウグウ試料を酸処理して大部分の無機物を溶解・除去すること (破壊分析) によって得られた、酸不溶性残渣の分析も行いました。その結果、高い収率で回収された酸不溶性残渣は、黒い固体状の有機物であることが判明しました。この酸不溶性残渣の測定結果は、非破壊分析した有機物のものとほとんど一致したことから、リュウグウ試料の有機物の主要な割合を黒い固体有機物が占めていると結論づけることができます。この黒い固体有機物が、小惑星リュウグウが黒い天体であることを特徴づけているのかもしれません。

 本論文では、炭素質小惑星の有機物と、始原的な炭素質コンドライト隕石の有機物との関係を、初めて証明しました。さらに、詳細には、小惑星リュウグウの方が隕石に比べて化学組成・同位体組成・形態に多様性があることも明らかとなりました。このことは、リュウグウの母天体における液体の水、有機物、鉱物との反応がさまざまな条件 (度合い) で進行し、星間分子雲や原始惑星系円盤で生じた初生の有機物が分解され、分解生成物から新たな有機物が合成されるといったプロセスを繰り返しながら、有機物の組成が多様に化学進化した歴史を裏付けるものです。なお、分析したリュウグウ試料の固体有機物の組成は、第 1 回タッチダウンで回収した表層試料と第 2 回タッチダウンで回収した人工クレーター近傍試料との間で大きな相違は見られませんでした。すなわち、太陽系が誕生した約 46 億年前、さらには太陽系が誕生する前に形成された有機物が、比較的最近に小惑星表層で起こった天体衝突や宇宙風化による影響を免れ、リュウグウの表層試料に保存されていたことになります。(https://www.science.org/doi/10.1126/science.abn9057)

※ 本件についての詳細およびお問い合わせ先は以下をご覧ください。

関連先リンク