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木村 教授、井上 颯大さんらの研究グループが、個々のマイクロバブルが従うサイズ変化の法則を解明しました。

  • 2023年1月5日(木)

 九州工業大学 大学院情報工学研究院の植松 祐輝 准教授、九州大学 大学院理学研究院の木村 康之 教授、大学院理学府 物理学専攻 修士課程の井上 颯大さんの共同研究グループは、数十マイクロメートルの気泡が多く分散した水において個々のバブルが従うサイズの時間変化の法則を解明しました。今回の発見は、産業利用されているマイクロバブル水の気泡サイズ制御法の改善、基礎科学の未解決問題とされているナノバブルの安定性解明の端緒となります。将来的には、例えば、洗剤を使わなくとも汚れを落とすことができる洗浄用水の開発や、野菜の収量や魚介類の養殖生存率を増加させるための農漁業用水の開発など多方面の産業の発展に寄与するものと考えています。

ポイント

  • 数十マイクロメートルの気泡が多数、分散した水において個々の気泡のサイズの時間変化を予測する法則を解明した。
  • 気泡半径の平均値や分布関数のみを測定する従来の手法ではなく、顕微鏡による直接観察と画像解析を用いることで、1000 個程度の気泡の半径変化を個別に計測した。
  • 飽和結晶溶液において結晶粒子が多数あるときに見られるオストワルト熟成と呼ばれる現象が気泡分散系でも成立することを示した。

概要

 近年、技術の進歩により、小さな気泡を多数、水中に分散させることができるようになりました。これらは、マイクロバブル水と呼ばれ、様々な産業の現場で利用されています。例えば、魚介類の養殖や半導体機器の洗浄用水として利用されています。我々の身の回りでも、炭酸水やお風呂のジャクジーなどで、気泡が水中に多く分散した状態というものは身近な現象です。水中の気泡は密度が小さいので、上昇していき水面で消滅することが殆どですが、ガラス表面などで長時間留まることもあります。小さい気泡は非常にゆっくりと上昇し、気泡の半径も収縮したり膨張したりします。

 水中の気泡のサイエンスにおける大きな謎として、マイクロバブルよりもさらに小さなナノバブルがなぜ長時間安定に存在するのかという問題があります。普通、小さいバブルは直ぐに収縮してしまうため、このナノバブルは、当初、存在しないと考えられていました。しかし、近年、ナノスケールの微粒子検出技術が発達し、どうやらナノバブルを生成して数週間から数ヶ月程度、水中に安定に存在していることが実験的に確かになってきています。しかし、今の所、このナノバブルの存在を説明する理論はありません。

 そこで本研究は、ナノバブルよりも大きく顕微鏡で観察可能なマイクロバブルを対象として、マイクロバブルの半径がどのように時間変化しているかを実験的に解明することを目的にしました。マイクロバブルが多数分散したマイクロバブル水を顕微鏡で観察して、1000 個ほどのマイクロバブルを 1 分ごとに画像撮影をします。その画像を計算機で解析することにより、それぞれの気泡の半径の時間変化を 90 分にわたり取得しました。

 解析の結果、ある時刻での気泡の半径には膨張と収縮の両方の変化があり、その境界は、およそ全体の平均半径で決まり、平均半径よりも大きな気泡は膨張を、平均半径よりも小さな気泡は収縮していくことが分かりました。これは、飽和結晶溶液で大小の結晶粒子が多数ある場合に起きるオストワルト熟成と同様の現象です。さらに、より詳細にある半径の気泡がどのような半径速度を持つか調べたところ、水中のマイクロバブルの挙動は、気泡内のガス分子が小さな気泡から大きな気泡へ拡散していく拡散律速型オストワルト熟成であり、定量的に予測、説明できることが分かりました。

 今回の発見は、気泡を多数、分散させた系に特有の現象です。応用上、マイクロバブルは水中に多数分散させた状態で利用することが多いですが、これまでの気泡半径の時間変化についての研究の多くは単一気泡のみを考えたものでした。そのため、多数の気泡を同時に扱う本研究の視点は、新しいものです。この発見が、ナノバブルの存在を理論的に説明する足掛かりになることが期待されます。またマイクロバブル水を産業利用する場で、気泡サイズの制御に関する技術革新に寄与するものと考えられます。

 なお、この研究成果は、米国物理協会雑誌「The Journal of Chemical Physics (論文誌)」(2022 年 12 月 28 日) に掲載されました。(https://doi.org/10.1063/5.0128696)

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