HOME > 広報 > トピックス > 2020年9月11日(金)

西脇 瑞紀さんが日本火山学会「学生優秀論文賞」を受賞しました。

  • 2020年9月11日(金)

 大学院理学府 地球惑星科学専攻 博士後期課程 1 年 (日本学術振興会 特別研究員 DC1) の西脇 瑞紀さんが日本火山学会「学生優秀論文賞」を受賞しました。この賞は、火山学に関する独創的で特に優れた論文を投稿時点において学生として筆頭執筆した日本火山学会会員に贈られるものです。

対象論文  Mizuki Nishiwaki and Atsushi Toramaru (2019) "Inclusion of viscosity into classical homogeneous nucleation theory for water bubbles in silicate melts: reexamination of bubble number density in ascending magmas," Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 124, 8, 8250-8266. (https://doi.org/10.1083/jcb.202001003)

受賞者

西脇 瑞紀 (大学院理学府 地球惑星科学専攻 博士後期課程 1 年)

研究テーマ

マグマの発泡現象、特に気泡核形成段階において粘性が及ぼす効果の理論的考察

研究概要

 火山噴火におけるマグマの減圧速度は噴火の表面現象を左右する重要な物理量であるが、直接観測は現時点では困難である。これを、軽石や火山灰などの噴火堆積物の組織解析により得られる情報から見積る試みがこれまでに数多くなされてきた。組織解析から得られる情報の中でも「気泡数密度 (BND) 」はマグマの減圧発泡の履歴を保存している点で有用性が高い。代表的な理論的研究:Toramaru (1995) は、BND をマグマの物性および減圧速度の関数として表し、BND からマグマの減圧速度を見積るツール「BND 減圧速度計」を構築した。

 このモデルの土台となる古典核形成理論では、気泡核形成において周囲の流体の粘性が及ぼす効果は無視されていた。しかし、気泡核を作るためには気泡核の内圧が周囲のメルトの粘性抵抗に打ち勝つ必要があるため、粘性の高い流紋岩メルトでは核形成速度が小さくなることが直感的に予想される。すなわち、核形成速度は粘性依存性を持つことが予想される。

 そこで我々は、① ケイ酸塩メルト-水の 2 成分系における水の気泡核形成速度の式を粘性項を含む形で解析的に導出し、天然のマグマの粘性の範囲において核形成速度は粘性に反比例することを示した。また、② 新たに導出した核形成速度の式を用いて減圧発泡の時間発展を数値的に解き、高粘性/高減圧速度領域において BND が過大評価されてきた可能性を示した。さらに、③ 再構築した数理モデルと過去の室内減圧発泡実験の結果を比較したところ、高粘性/高減圧速度領域に入る条件で行われた実験が未だ存在しないことが判明した。

 我々の生活に甚大な被害をもたらす巨大な爆発的噴火はこの条件を満たす可能性がある。現在、我々は防災科学技術研究所の所有する水熱合成減圧実験装置を用いた室内実験を通して、理論予測 ① の検証に目下取り組んでいる。

関連先リンク