国立研究開発法人海洋研究開発機構 (理事長 河村知彦、以下「JAMSTEC」という)地球環境研究部門 地球表層システム研究センターの粕谷拓人研究員 (研究開始時:同機構 研究生/九州大学大学院 理学府地球惑星科学専攻 博士後期課程)、東京大学大気海洋研究所 國吉優太大学院生 (博士課程)(研究当時/現:国立環境研究所特別研究員)らの国際共同研究チームは、地質記録と数値モデルを組み合わせた古気候学研究を実施し、AMOCの弱化が遠く離れた南半球中・高緯度域の気候にも大きな影響を及ぼし得ることを明らかにしました。
地球全体の気候を調節する重要な役割を担うAMOCは、近年、その弱化が指摘されており、将来的に弱化が進行する可能性が懸念されています。AMOCが弱化すると、大気循環や降水分布にも連鎖的に変化が生じると予測されており、その将来動向に大きな関心が寄せられています。しかし、AMOCの直接観測が始まってからの期間はまだ短く、将来予測されるような大規模な弱化もこれまでに観測されていないため、その影響を観測データだけから評価するには限界があります。そこで共同研究チームは、過去にAMOCが大きく弱化した時代の情報を記録する地質試料と数値モデルを用いて、AMOCの弱化が遠く離れた南半球の気候やパタゴニア氷床に及ぼす影響を調べました。
本研究では、JAMSTECの海洋地球研究船「みらい」が2016年度の航海で南東太平洋チリ沖から採取した深海底堆積物に含まれる陸起源の鉱物粒子を対象に、その供給量や供給源の変動を調査しました。その結果、最終氷期に発生した千年規模のAMOC弱化に関連して、南米パタゴニア氷床縁辺部から流出し、太平洋に供給される粒子が繰り返し増加していたことが明らかになりました。さらに、この現象が生じるメカニズムを解明するため、AMOCの弱化を再現する数値シミュレーションを行い、パタゴニア地域の気候と氷床の応答を解析しました。その結果、AMOCの弱化に伴って南半球中・高緯度域の海水温が上昇するとともに、降水量が増加し、パタゴニア氷床から流出する融け水が増加した可能性が示されました。また、降水量の増加には南半球偏西風帯が南側で強まったことが関与していた可能性も示されました。これらの結果は、AMOCの弱化が南極を取り囲む南大洋の風成湧昇を強め、海洋内部から大気への二酸化炭素(CO2)放出を促進するなど、全球の炭素循環にも影響を及ぼしたとする従来の仮説を支持するものです。したがって、本研究は、北大西洋で生じた海洋循環の弱化が、海洋と大気の双方を介して遠く離れた南半球へ伝わる地球規模の気候システムのつながりの一端を明らかにしました。
本研究成果は、米国科学アカデミー発行の総合学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences2026年9月14日の週に掲載される予定です。なお、本研究の一部は、JSPS科研費[JP24KJ1771・JP23KJ0495・JP18H03370・JP23K28226・JP17H06104・JP17H06323・JP24H02346・JP25K03253]および笹川科学研究助成[2023-6021]の助成を受けて実施されました。本研究の数値シミュレーションは、海洋研究開発機構のスーパーコンピューター地球シミュレータ(ES4)を用いて行なわれました。
※ 本件についての詳細およびお問い合わせ先は以下をご覧ください。