量子力学では、物理量が同時に異なる状態をとる「量子的重ね合わせ」という性質が成り立ちます。この基本的性質がどこまで成り立つのかは現代物理学の重要な研究課題です。特に重力にも量子的重ね合わせが成立するのかという「重力の量子性」が大きな関心を集めています。二つの物体が重力のみを介して量子もつれを作る「重力誘起エンタングルメント」が観測されれば、重力がこの量子的性質を持つことを示す重要な証拠となります。
巨視的な鏡とレーザー光が結合するオプトメカ系は、この問題を実験的に検証する有力な手法として注目されています。九州大学大学院理学府の福澄諒太郎さん、畠山広聖さん、同大学院理学研究院の山本一博教授とカリフォルニア工科大学の三木大輔さんの研究グループは、オプトメカ系において鏡の運動量の量子ゆらぎを強く抑えた状態(運動量スクイーズド状態)が実現可能であることを世界で初めて示しました。さらに、この状態では位置の量子的重ね合わせが量子揺らぎとともに大きく広がるため、二つの鏡の間に生じる重力誘起エンタングルメントの信号が増強されることを明らかにしました。
本研究では、オプトメカ系の出力光を連続測定し、そのデータを最適に処理する最適フィルタリング(Wienerフィルタ)の手法を用いて鏡の量子状態を理論的に解析しました。その結果、運動量の量子ゆらぎを標準量子限界以下に抑える運動量スクイーズド状態が実現できることを発見し、その条件を特定するとともに、この状態を利用することで重力誘起エンタングルメントの生成が強くなる仕組みを明らかにしました。
本成果は、将来の実験で重力の量子性を検証するための新しい戦略を示すものです。実現には超高真空・低温環境など厳しい条件が必要であり、低周波領域での精密測定や宇宙空間での実験環境の活用などが課題となります。また本研究の発展は、超高感度フォースセンサーなどの量子センシング技術への波及効果も期待されます。
本研究成果は米国の雑誌「Physical Review Research」に2026年4月13日(月)に掲載されました(https://doi.org/10.1103/zrs2-sk28)
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