がんによる死亡の大きな原因の一つは、がん細胞が血管を通って体の別の臓器へ広がる「血行性転移(以降、転移)」です。がん細胞が血管の外へ抜け出す「血管外遊出」は転移成立において重要な段階ですが、その細胞レベルの仕組みは十分に解明されていませんでした。
一方、発生過程では血管内を移動する鳥類のPGCも、最終的に血管の外に遊出して生殖腺へ到達します。PGCとがん細胞はいずれも血管外へ遊出する能力を持ちますが、この過程の細胞運動の仕組みがどこまで共通しているのかは明らかではありませんでした。
九州大学大学院理学研究院の齋藤大介教授、森田瑞基(システム生命科学府博士課程5年)、寺本孝行准教授の研究グループは、九州大学大学院医学研究院の池ノ内順一教授、フランスINSERMのBertrand Pain教授との共同研究で、鳥類のPGCと複数のヒトがん細胞の血管外遊出の過程を比較解析しました。
その結果、これらの細胞は共通して「ブレブ」と呼ばれる風船状の細胞突起を形成しながら血管壁を通過することを明らかにしました。さらに、このブレブ形成を制御するカルシウムシグナルの仕組みは細胞の種類によって異なり、PGCおよびHT-1080細胞では細胞外からカルシウムを取り込むストア作動性カルシウム流入(SOCE)が関与する一方、PC-3細胞やMDA-MB-231細胞では細胞内小胞体からのIP3受容体依存的カルシウム放出が主要な役割を担うことがわかりました。
本研究は、血管外遊出において共通の細胞運動原理と、その制御機構の多様性を示したものであり、がん転移の理解を深める新たな視点を提供する成果です。また、PGCの移動機構との比較から、がん細胞が獲得する転移能力の進化的起源を考える上でも重要な知見となります。
本研究成果は、英国の学術誌「Nature communications」に2026年3月26日(木)付で掲載されました。(https://doi.org/10.1038/s41467-026-71052-4)
※ 本件についての詳細およびお問い合わせ先は以下をご覧ください。