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矢原名誉教授らの研究グループが新種キリシマイバラとシライワアケボノソウを発表しました。 --日本に野生するバラの新種発見は107年ぶり--

  • 2025年11月6日(木)

研究の背景と経緯

 NHKドラマ「らんまん」で描かれたように、日本では牧野富太郎が活躍した明治時代に多くの植物の種が発表され、植物分類学の基礎が築かれました。しかし、その分類は形態にもとづくものでした。形態が違っていても遺伝的には同一種である場合や、形態的な違いがわかりにくくても遺伝的には別種に分かれている場合があります。このため、遺伝的な違いをあらわすゲノム配列を比較する最新技術を用いて、これまでの分類を再検討する作業が必要とされています。

研究の内容と成果

 今回の研究で、バラ属の新種キリシマイバラ、新亜種シコクイバラ、センブリ属の新種シライワアケボノソウの存在が確認され、正式に発表されました。

 九州大学大学院理学研究院矢原徹一名誉教授と福島大学廣田准教授(九州大学大学院システム生命科学府で学位を取得)らの研究グループは、東北大学陶山佳久教授が開発した技術(MIG-seq解析)を用いてバラ属とセンブリ属のゲノム配列の違いを比較し、キリシマイバラとシライワアケボノソウが新種であり、シコクイバラが新亜種(フジイバラの亜種)であることを確認しました。

 キリシマイバラとシコクイバラは鹿児島大学田金秀一郎准教授、高知県立牧野植物園藤井聖子氏との共同調査を通じて発見されました。また、シライワアケボノソウは、九州大学大学院システム生命科学府の夫婦石千尋(主著者)、社川武徳との共同調査を通じて発見されました。キリシマイバラはヤブイバラに似ていますが、花色が淡いピンク色である(キリシマイバラは白色)である点などで区別されます。シコクイバラはフジイバラに似ていますが、葉がより大型です。シライワアケボノソウはアケボノソウに似ていますが、おしべや蜜腺の色などで区別されます。いずれも近縁種・亜種と形態的によく似ていますが、ゲノム配列においては明瞭に異なります。また、キリシマイバラとヤブイバラ、シライワアケボノソウとアケボノソウは同じ地域に生育していながら、遺伝的には交流していないことが確認されたため、別種であることがわかりました。シコクイバラとフジイバラは、それぞれ四国と本州に分布することから、亜種レベルの分化と判断されました。

 バラ属の新種発表は、1918年に発表されたツクシイバラ以来、107年ぶりのことです。また、アケボノソウは1846年にシーボルトらによって発表されて以来、一種だと信じられていましたが、今回の研究で2種に分かれていることが判明しました。

今後の展開

 矢原徹一名誉教授らの研究グループでは、ゲノム配列を比較する新技術を使って日本列島の植物の分類を再点検するプロジェクトを進めています。このプロジェクトを通じて、約200の新種候補が発見されています。今後もこれらについての研究を進め、新種として正式に発表する予定です。

参考図

キリシマイバラ
キリシマイバラ

謝辞

本研究は環境研究総合推進費(JPMEERF20204001, JPMEERF20234001)の助成を受けたものです。

論文情報

掲載誌:Journal of Japanese Botany 100(5): 398-415 (2025).
タイトル:Two new taxa of Rosa from Japan: R. kirishimensis sp. nov. and R. fujisanensis subsp. shikokumontana, subsp. nov.
著者名:矢原徹一1, 田金秀一郎2, 廣田峻3, 藤井聖子4, 布施健吾1, 佐藤広行1, 社川武徳5, 陶山佳久6 (1九州オープンユニバーシティ, 2鹿児島大学総合研究博物館, 3大阪公立大学附属植物園, 4高知県立牧野植物園, 5九州大学システム生命科学府, 6東北大学農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センター)
DOI: https://doi.org/10.51033/jjapbot.ID0326

掲載誌:Journal of Japanese Botany 100(5): 385–397 (2025).
タイトル:A New Species and a New Subspecies of Rosa (Rosaceae) from Kyushu and Shikoku, Japan
著者名:夫婦石千尋1, 社川武徳1, 廣田峻2, 布施健吾3, 佐藤広行3, 4, 陶山佳久5, 矢原徹一3, 4 (1九州大学システム生命科学府, 2福島大学共生システム工学類, 3九州オープンユニバーシティ, 4九州大学総合研究博物館, 5東北大学農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センター)
DOI: https://doi.org/10.51033/jjapbot.ID0329

お問合せ先

九州大学 大学院理学研究院 名誉教授 矢原 徹一 (ヤハラ テツカズ)
TEL:092-407-1700 FAX:092-407-1700
Mail:tet.yahara@gmail.com