二次元層状物質は、高い電気伝導性、柔軟性、透明性などの優れた特性を備えており、多彩な応用が提案されています。中でも、次世代エレクトロニクスにおける新材料として、近年特に大きな注目を集めています。さらに、近年では強磁性を示す二次元層状物質も発見され、「二次元磁石」として磁気記録やスピントロニクスへの応用が期待されています。中でもFe3GaTe2は、室温で磁性を維持するだけでなく、強い磁気異方性と優れた熱電特性を併せ持つことから、熱電デバイスへの応用も有望視されています。通常、強磁性体の磁気特性は磁場やスピン流によって制御されますが、磁気異方性の増加に伴い、より大きな磁場や電流が必要となるため、消費電力の増大が大きな課題となっています。このような背景から、近年では電場による磁気特性の制御が省電力化の観点で大きな注目を集めています。しかしながら、これまでのところ、二次元磁石における磁気特性の電気的制御は報告されていませんでした。
本研究では、二次元層状磁石の磁気特性を室温において電気的に制御することに、世界で初めて成功しました。九州大学大学院理学研究院の飯森陸助教および木村崇教授らの研究グループは、Fe3GaTe2薄膜を強誘電体基板上に作製し、電場印加により強誘電体の歪みや電気分極を制御することで、Fe3GaTe2の磁気異方性の変化を評価しました。その結果、電場によって誘起される歪みにより、Fe3GaTe2の自磁気特性が大きく変調できることを確認しました。さらに、界面からの距離が増すにつれて歪みが減少することから、層内に歪みの勾配が形成され、これにより空間反転対称性が破れることで、特異な磁区構造の形成が示唆される結果も得られました。
本成果は、スピントロニクスデバイスにおける最大の課題である消費電力の低減に貢献するとともに、高機能かつ高効率な熱電デバイスの実現にも寄与するものであり、二次元層状磁石の応用範囲を大きく広げる成果となっています。さらに、本手法は強磁性体に限らず、他の二次元層状物質に対しても適用可能であり、今後の物性制御技術や材料開発における波及効果が大いに期待されます。
本成果は、2025年8月27日(現地時間)にドイツWilley社の科学誌「Advanced Scienceのオンライン版に掲載されました。(https://doi.org/10.1002/advs.202503530)
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