「量子もつれ」の構造の解明は、理論物理と量子情報の双方にとって中心的課題ですが、これまでの研究の多くは1+1次元に限定されています。量子もつれ構造の解析は1+1次元を超えると急激に難しくなり、高次元の量子もつれ構造に対する新しい解析手法が望まれていました。
九州大学高等研究院(大学院理学研究院 物理学部門 素粒子理論研究室所属)の楠亀 裕哉 准教授(理化学研究所数理創造研究センター 客員研究員を兼務)、カリフォルニア工科大学の大栗博司教授(東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構 教授を兼務)およびSridip Pal研究員からなる共同研究グループは、近年素粒子論において高次元理論の解析を大きく前進させた「熱的有効理論」と呼ばれる手法に着目し、この手法を量子情報に導入することで、任意の次元の量子系における量子もつれの構造に潜む普遍的振る舞いを見出すことに成功しました。
今回の発見は、高次元量子系の数値シミュレーション手法の改良や、量子多体系の分類の新たな指針の提案に役立つことが期待されます。また、量子重力理論における量子情報的理解の深化にもつながる可能性があり、理論物理・量子情報の両分野において幅広い展開が期待されます。今後は、熱的有効理論のさらなる精密化や一般化を通じて、高次元における量子もつれ構造のより深い理解を目指すことが課題となります。
本研究成果は米国の雑誌「Physical Review Letters」のオンライン版に、 2025年8月5日(火)に掲載されました。また、同誌の「Editors’ Suggestion」に選出されました。Editors' Suggestionは、PRL掲載論文の約6本に1本が選ばれる特別な称号で、特に重要かつ注目に値すると編集者が認めた論文に与えられます。(https://doi.org/10.1103/fsg7-bs7q)
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