分子材料の光機能は、分子の構造や対称性と密接に関係しています。中でも、光励起によって分子の対称性が変化する現象が、光物理特性にどのような影響を与えるのかは、近年注目されつつある重要な課題です。しかしこのような励起状態における対称性変化と光機能の関係は、主に遷移金属錯体を対象とした研究例に限られており、持続可能な社会を実現するために重要な典型元素錯体ではこれまで十分に解明されていませんでした。
今回、九州大学大学院理学研究院の江原巧大学院生、宮田潔志准教授、恩田健教授らは、分子科学研究所/総合研究大学院大学の倉持光准教授(現:大阪大学 教授)のグループ、九州大学大学院工学研究院の小野利和准教授のグループ、理化学研究所の村中厚哉専任研究員と共同で、三重らせん構造を有する高対称性のアルミニウム(III)二核錯体に着目して研究を行いました。光励起に伴う分子の構造変化を詳細に観測・解析するため、10フェムト秒(100兆分の1秒)の励起パルスを用いた超高速分光と量子化学計算を組み合わせて計測を行いました。その結果、光励起に伴って一部の配位子が平面化する構造変化が、分子全体の対称性がD3からC2へと変化するヤーン・テラー歪みと強く結合していることが明らかになり、電子状態の特定の配位子への局在化も実証しました。
今回解明された励起状態における対称性破れ、およびその光物性との相関は、アルミニウムのような地球豊富元素を活用した持続可能な光機能材料の設計にとって極めて重要な知見であり、次世代の高性能・高効率な発光材料や光電変換材料の開発へとつながることが期待されます。
本研究成果は、2025年6月18日(水)付で米国化学会の国際学術誌「Journal of the American Chemical Society (JACS)」にオンライン掲載されました。(https://doi.org/10.1021/jacs.5c06020)
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