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熱田講師、栗山将馬さん、重松啓介さん、権昇俊さんらの研究グループが、ヘビの線維芽細胞に対する初代培養法および遺伝子操作法の最適化に成功しました。

  • 2025年6月11日(水)

    ポイント

    • コーンスネークとシマヘビの胚性、あるいは成体の線維芽細胞を安定的に維持できる培養系を確立した。
    • さらに培養中のヘビ細胞へと効率的に遺伝子を導入できる手法を見出した。
    • 今後これらの手法を用いることで、ヘビ細胞の特性解析に関する研究が一層進むことが期待される。

    概要

     ヘビは四肢や胸骨を欠き、細長い胴体をもつという、極めて特異な形態進化を遂げた脊椎動物であり、進化発生学の分野において極めて重要かつ魅力的な研究対象です。しかしながら、ヘビは年に1度しか産卵しないため、研究に必要な多数の胚を得ることが難しく、さらに胚に代わる実験系として有用な初代細胞についても、これまで長期培養法や遺伝子導入法が確立されておらず、ヘビ細胞を用いた研究の実施すら困難な状況が続いていました。

     九州大学大学院理学研究院の熱田勇士講師らの研究グループは、このような課題の克服に向け、比較的飼育が容易でゲノム配列がすでに解読されているコーンスネークの飼育を開始し、安定して細胞を得られる飼養環境を整備しました。その後、有精卵から得たコーンスネーク胚より胚性線維芽細胞(SEF)を採取し、さまざまな培地組成と培養温度の条件下で細胞培養を行いました。その結果、15%ウシ胎仔血清を添加したTeSR-E6培地を用い、28℃で培養する条件において、2週間にわたり安定的な細胞増殖が得られることを見出しました。さらに、この培養条件はコーンスネーク成体および別種であるシマヘビの細胞にも有効であることを確認しました。

     加えて、培養温度が遺伝子発現に及ぼす影響を調べた結果、28℃で培養した細胞では、増殖性の高い細胞で典型的に高発現する細胞骨格遺伝子(ケラチン8および18)、細胞外マトリックス遺伝子(コラーゲン1a1)、および脂質合成関連遺伝子(Hmgcs1)が顕著に発現し、逆に細胞周期を抑制することが知られるtp53の発現は抑制されていることが明らかとなりました。

     さらに、確立した最適培養条件を基盤として効率的な遺伝子導入法の検討を進めたところ、トランスフェクション試薬 Lipofectamine 3000(Thermo Fisher)およびXfect(Clontech)に加え、エレクトロポレーション法の3手法により、コーンスネーク細胞への高効率な遺伝子導入が可能であることを確認しました。

     本研究は、岡山理科大学獣医学部の鍬田龍星教授との共同研究として実施され、その成果は国際学術誌「Development, Growth & Differentiationにて、2025年6月9日(月)にオンライン掲載されました。(https://doi.org/10.1111/dgd.70013)

    参考図
    ヘビ細胞の長期培養系と効率的な遺伝子導入法を見出した
    ヘビ細胞の長期培養系と効率的な遺伝子導入法を見出した
    (A)コーンスネーク胚(産卵後0日目の胚)。すでに長い胴体を持ち、とぐろを巻いている。 (B)培養されたコーンスネークの胚性線維芽細胞。 (C)EGFP遺伝子を導入されたコーンスネーク胚性線維芽細胞。

    謝辞

     本研究は創発的研究支援事業(JST、JPMJFR214G)、科研費基盤研究(C)、内藤記念科学振興財団、加藤記念バイオサイエンス振興財団の支援を受け行われたものです。また、シマヘビ有精卵は蛇族学研究所(群馬県)より供与を受けました。

    論文情報

    掲載誌:Development, Growth & Differentiation
    タイトル:Optimization of culture and transfection methods for primary snake cells
    著者名:Shoma Kuriyama*, Keisuke Shigematsu*, Seung June Kwon, Ryusei Kuwata, Yuji Atsuta#
    DOI:10.1111/dgd.70013

    お問合せ先

    <研究に関すること>
    九州大学大学院理学研究院・生物科学部門・動物発生学研究室
    講師 熱田 勇士 (アツタ ユウジ)
    TEL:092-802-6556 FAX:092-802-4270
    Mail:atsuta.yuji.360◎m.kyushu-u.ac.jp
    ※メールアドレスの「◎」を「@」に変換して下さい。

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