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濱村教授らの研究グループが難培養性の鉄酸化細菌の高効率培養に成功しました

  • 2025年5月30日(金)

    ポイント

    • 現場環境を再現した培地設計により難培養性の鉄酸化細菌の高効率培養に成功
      →現場の主要元素濃度を可能な限り再現した“オーダーメイド培地法”を開発
    • 培地の物理構造を工夫し、鉄と酸素の濃度をコントロールできる培地
      →鉄酸化細菌のエネルギー基質である鉄と酸素濃度を調整できる培養法
    • 本手法により、従来法に比べて最大100倍以上、集積能力を向上
      →従来法より大幅に高い培養効率を実現し、新種の鉄酸化細菌分離に成功
    • 本手法は複数の環境でも有効性を示し、汎用性の高い培養法
      →鉄酸化細菌は地下水などの水浄化に用いられる有用微生物であり、高い環境浄化能をもつ鉄酸化細菌の探索など、今後幅広い応用が期待される

    概要

     愛媛大学大学院農学研究科 光延聖教授、同じく農学研究科の内島智貴大学院生(研究当時)は、理化学研究所 加藤真悟上級研究員、広島大学 白石史人教授、日本原子力研究開発機構 徳永絋平研究員、九州大学 濱村奈津子教授、東京海洋大学 牧田寛子准教授らとの共同研究によって、これまで純粋培養が非常に難しかった鉄酸化細菌の培養効率を大幅に向上する方法を確立しました。

     鉄をエネルギー源として生きる「鉄酸化細菌」は、地下水や温泉、湿地など自然界のさまざまな場所に広く分布し、鉄の酸化反応を通じて地球規模の鉄循環に寄与しています。さらに、彼らが作り出す鉄酸化物は、ヒ素や銅などの有害元素を強く吸着・固定する能力を持つことから、環境浄化にも応用されています。しかし、このように重要な役割を担っているにもかかわらず、多くの鉄酸化細菌は実験室で純粋培養できず、非常に培養が難しい微生物として知られてきました。実際、陸上環境の独立栄養性鉄酸化細菌の純粋培養報告は世界で8例程度にとどまっており、その生態解明や工学応用は進んでいません。

     本研究チームでは、培地中の酸素、鉄、炭酸の濃度、pHや無機栄養塩のバランスが、鉄酸化細菌が生息する環境条件と大きくかけ離れていることが、培養がうまくいかない要因として着目しました。そこで、本研究チームは、環境水を丹念に分析し、現場水質の化学組成を厳密に再現した“オーダーメイド培地法”を考案しました。また酸素と鉄(II)がちょうど良い割合で共存する、鉄酸化細菌の増殖にとって最適な“安全領域”を培地内に設計しました。その結果、従来法と比べて最大100倍以上高い効率で集積・分離ができる培養法を確立しました。この方法は複数の温泉や地下水環境でも高い有効性を示しており、鉄酸化細菌の研究を前進させるとともに、鉄酸化細菌の特性を活かした環境修復技術(バイオレメディエーション)の開発にもつながることが期待されます。

    本研究成果は、英国の科学雑誌「FEMS Microbiology Ecology」に掲載され、令和7年5月5日に先行公開されました。(https://doi.org/10.1093/femsec/fiaf051)

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