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坂口教授が99番元素アインスタイニウム同位体を用いた新たな「核分裂」を発見しました

  • 2025年5月16日(金)

    発表のポイント

    • ウランなどの核分裂は、原子核の内部構造のため、大小質量の異なる2つの核分裂片に分裂する非対称核分裂をします。一方で、原子核の励起エネルギーが増加すると、内部構造が弱まり、ほぼ同じ質量の2つの原子核に分裂する対称核分裂になることがわかっています。
    • 超重元素など極限領域の核分裂を理解するためには、より質量数の大きな原子核を詳細に調べる必要があります。
    • 本研究では、人類が利用できる最も重い元素であるアインスタイニウムの同位体(254Es、原子番号99)を用いました。254Esからメンデレビウムの同位体(258Md、原子番号101)を生成し、この原子核の核分裂を調べたところ、励起エネルギーの増加によって非対称核分裂が増えることを観測しました。この現象は、従来の核分裂研究からは説明できない発見です。
    • この新たな核分裂は、超重元素や、宇宙で作られる原子核の核分裂の特徴をとらえたものです。この現象を追求することで元素の存在限界や宇宙での元素合成の理解が進むと期待されます。

    概要

     原子核の核分裂は、原子力エネルギー利用を支える基本的な現象であり、また基礎科学においては超重元素の存在限界を決め、天体において、鉄より重い元素が作られる核反応過程に影響を与えるなど、重要な現象です。そのため、核分裂は原子力エネルギー利用と科学的重要性から80年以上研究されています。

     原子核を「電荷を帯びた液滴」と考える古典モデル(液滴模型)では、核分裂によって2つの等しい質量の核分裂片が生成します。一方、原子核の中では、中性子や陽子の運動に由来する殻構造のため、原子核は大小2つの質量の異なる核分裂片に分裂する経路(モード)が発達していることがウラン(236U)などで知られています。ところが、原子核に励起エネルギー(原子核の温度)を与えると、殻構造が消滅して非対称核分裂モードが消え、古典モデルのように振舞い、2つの等しい質量の核分裂片ができます。

     本研究では、人類が利用できる最も重い元素であるアインスタイニウム(254Es、原子番号99)を用いた核反応でメンデレビウム(258Md、原子番号101)を生成し、この核分裂を調べました。258Mdは、254Esより重い元素で、かつ多くの中性子を持った原子核(中性子過剰核)です。258Mdは、254Esを標的とし、タンデム加速器から得られる高エネルギーのヘリウム(4He)ビームを254Esに照射して生成しました。実験では生成された258Mdからの2つの核分裂片の質量数と運動エネルギーを決定しました。実験の結果、258Mdの励起エネルギーを15MeVから18MeVに上げると、大小2つの核分裂片を生み出す非対称核分裂モードが増加することを発見しました。この発見は、従来のウランなどの核分裂の常識と異なる結果です。この現象は、超重元素や中性子過剰核の核分裂の特徴をとらえたものです。この現象を追求することで、元素の存在限界や、宇宙で元素が生成される仕組みの理解が深まると期待されます。

     本研究は国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 小口正範、以下「原子力機構」)の西尾勝久研究フェロー、廣瀬健太郎研究副主幹、塚田和明研究主席(現・東北大学)、岡田和記特定課題推進員、 近畿大学の有友嘉浩教授、東北大学の岩佐直仁准教授、九州大学の坂口聡志教授 他による成果です。

     本成果は、アメリカ物理学会の国際学術誌「Physical Review C」のオンライン公開版(4月21日(現地時間))に掲載されております。(https://doi.org/10.1103/PhysRevC.111.044609)

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