原子核の核分裂は、原子力エネルギー利用を支える基本的な現象であり、また基礎科学においては超重元素の存在限界を決め、天体において、鉄より重い元素が作られる核反応過程に影響を与えるなど、重要な現象です。そのため、核分裂は原子力エネルギー利用と科学的重要性から80年以上研究されています。
原子核を「電荷を帯びた液滴」と考える古典モデル(液滴模型)では、核分裂によって2つの等しい質量の核分裂片が生成します。一方、原子核の中では、中性子や陽子の運動に由来する殻構造のため、原子核は大小2つの質量の異なる核分裂片に分裂する経路(モード)が発達していることがウラン(236U)などで知られています。ところが、原子核に励起エネルギー(原子核の温度)を与えると、殻構造が消滅して非対称核分裂モードが消え、古典モデルのように振舞い、2つの等しい質量の核分裂片ができます。
本研究では、人類が利用できる最も重い元素であるアインスタイニウム(254Es、原子番号99)を用いた核反応でメンデレビウム(258Md、原子番号101)を生成し、この核分裂を調べました。258Mdは、254Esより重い元素で、かつ多くの中性子を持った原子核(中性子過剰核)です。258Mdは、254Esを標的とし、タンデム加速器から得られる高エネルギーのヘリウム(4He)ビームを254Esに照射して生成しました。実験では生成された258Mdからの2つの核分裂片の質量数と運動エネルギーを決定しました。実験の結果、258Mdの励起エネルギーを15MeVから18MeVに上げると、大小2つの核分裂片を生み出す非対称核分裂モードが増加することを発見しました。この発見は、従来のウランなどの核分裂の常識と異なる結果です。この現象は、超重元素や中性子過剰核の核分裂の特徴をとらえたものです。この現象を追求することで、元素の存在限界や、宇宙で元素が生成される仕組みの理解が深まると期待されます。
本研究は国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 小口正範、以下「原子力機構」)の西尾勝久研究フェロー、廣瀬健太郎研究副主幹、塚田和明研究主席(現・東北大学)、岡田和記特定課題推進員、 近畿大学の有友嘉浩教授、東北大学の岩佐直仁准教授、九州大学の坂口聡志教授 他による成果です。
本成果は、アメリカ物理学会の国際学術誌「Physical Review C」のオンライン公開版(4月21日(現地時間))に掲載されております。(https://doi.org/10.1103/PhysRevC.111.044609)
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