九州大学大学院理学研究院のLiu Huixin教授とQiu Lihui助教は、巨大磁気嵐発生期間中に、短波通信に悪影響をもたらすEs層が増強していること、そしてその地域分布と時間発展を、世界で初めて明らかにしました。
電離層(高度60~1000km)は、荷電粒子であるプラズマが満ちている領域です。Es層は、下部電離層(高度90~120km)に突発的に出現する高密度の薄い金属イオン層です。密度が高いため、通常の短波電波の届く範囲である数千kmを超えた長距離通信を可能にします。短波電波は、航空通信(航空管制)、海上通信(船舶-陸上間および船舶-船舶間通信)、放送(FMラジオおよびVHFテレビ放送)、アマチュア無線や緊急通信などに広く利用されています。そのため、Es層の発生や増強は、航空通信や漁船、テレビ信号受信などを妨害し、ユーザーの正常な通信に深刻な影響を与える可能性があります。
中低緯度でのEs層は主に大気潮汐によって形成され、磁気嵐など宇宙天気現象には無関係と考えられてきました。過去の磁気嵐発生中の観測でも明確なEs層の変化は報告されませんでした。しかし今回、本研究グループは、全球に分布する37の地上イオノゾンデと、COSMIC-2衛星群の電波掩蔽観測をシステム的に分析し、2024年5月10~12日の間に発生したG5クラスの巨大磁気嵐期間中、Es層が広い地域で大幅に増強されることを発見しました。増強された地域は主に、東南アジア、オーストラリア、南太平洋と東太平洋でした。さらに、Es層の増強は時間の経過とともに高緯度から低緯度へと波動のように伝播していく特性があることを明確に示しました。
Es層の増強は短波通信に乱れを引き起こすため、本研究の成果は、短波電波を利用した航空管制や海上通信システムの安全な運用において、気象情報だけでなく宇宙天気情報の必要性を示しています。今回の研究で明らかになったEs層増強の地域分布と時間発展の特徴は高精度時空間情報を有する宇宙天気予測につながると期待されます。
本研究成果は、2025年4月23日(水)午後11時(日本時間)に米国科学雑誌「Geophysics Research Letters」のオンライン版に掲載されました。(https://doi.org/10.1029/2025GL115154)
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