私たちが住む天の川銀河では、星が生まれる「保育園」ともいえる分子雲は、細長い"フィラメント"状をしていることが一般的です。私たちの太陽系もおそらくこのフィラメント状分子雲の分裂によって作られた星の卵 (分子雲コア) から誕生したと考えられます。しかし、この過程が宇宙の歴史を通して普遍的であるかどうかについてはほとんど研究が進んでおらず、より大昔の環境で星の保育園がどのような形を持っており、またどのように形作られるかは未解明のままでした。
今回の研究で大昔の宇宙では星の保育園はフィラメント状形状が必ずしも一般的ではなく、その形を大きく変化させているかもしれない兆候が初めて捉えられました。
天の川銀河の「お隣さん」としても知られる小マゼラン雲 (距離 約 20 万光年) は約 100 億年前相当の環境を残している銀河であり、大昔の宇宙における星の誕生過程を詳しく探る上で貴重な場所です。九州大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門 徳田 一起 学術研究員/特任助教および大阪公立大学 大学院理学研究科 物理学専攻 博士前期課程 2 年 國年 悠里 氏らの研究チームは、小マゼラン雲にある生まれたての巨大な星のまわりに広がる分子雲 17 箇所を、南米チリにあるアルマ望遠鏡を用いて観測しました。その結果、観測した分子雲のうち約 60 % は天の川銀河の分子雲と同様にフィラメント状をしていますが、残りの 40 % は綿飴のように"ふんわり"した形をしていることがわかりました。研究チームはフィラメント状分子雲が時間経過と共にその形を失い、ふんわりとした姿へと変貌していくと結論づけました。大昔の宇宙では、現在よりも"星の保育園"がふんわりとした姿へと変化しやすい条件が整っていた可能性が示唆されます。
これらの発見は、宇宙の歴史の中で星が生まれる場所がどのように形作られてきたかを理解する上で、新たな視点を提供します。我々が住む太陽系を含む「現在の」星の保育園が形成される上で、銀河環境自体の発展が欠かせなかった可能性があります。
本研究成果は米国の雑誌「The Astrophysical Journal」に 2025 年 2 月 20 日 (木) 午後 6 時 (日本時間) に掲載されました (https://doi.org/10.3847/1538-4357/ada5f8)。
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