一重項励起子分裂 (SF) は,発色団の分子集合体において光励起された分子 (一重項励起状態) が隣接した分子と相互作用し、中間体であるスピン相関三重項励起子対を経て 2 つの三重項励起子に分裂する励起子増幅現象であり、太陽電池や光デバイスの性能向上への応用が期待されています。SF を高効率化するためには、分子集合体中における発色団の分子配向と配列を制御することが必須ですが、これまで SF を効率よく起こすための分子配向・組織の設計指針は得られていませんでした。
今回、九州大学 大学院工学研究院の Ilias Papadopoulos 博士研究員 (当時) 、君塚 信夫 教授、同大学 大学院理学研究院の宮田 潔志 准教授の共同研究グループは、九州大学 大学院工学研究院の J. Ka-Ho Hui 特任助教 (当時) 、森川 全章 助教、金子 賢治 教授、河原 康仁 助教、同大学 大学院理学研究院の恩田 健 教授らと共同して、キラルな (分子不斉を有する) テトラセン発色団が形成するナノ粒子を開発し、キラルな自己組織化が SF の効率化につながることをはじめて明らかにしました。
本研究では、キラル分子の自己組織化が SF を促進するとの独自の着想のもと、キラルな発色団ナノ粒子を開発して実証実験を行いました。その結果、キラルなナノ粒子において、SF とフリーな三重項励起子の生成を観測しました。一方、対応するラセミ体やアキラルなナノ粒子では SF は観測されず、キラル分子組織化が、SF を高効率化する上で有用な新しい指針となることを明らかにしました。今回の成果は、太陽電池や光デバイスの高効率化、光触媒や量子情報科学など幅広い応用が期待されます。
本研究成果は、2024 年 8 月 13 日 (現地時間) に Wiley の国際学術誌「Advanced Science」にオンライン掲載されました (https://doi.org/10.1002/advs.202405864)。
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