私たちの体は上皮細胞のシートによって、外界からの異物の侵入を防いでいます。体の表面に位置する上皮細胞は、常に様々なストレスに曝されており、ダメージを受けた細胞はアポトーシス (細胞死) を起こします。アポトーシスを起こした細胞が、上皮細胞シート内に残り続けると、細胞シートの欠損部位となり、そこから異物の侵入が起こり、感染や炎症の原因になります。このため、アポトーシスを起こした細胞は、周囲の細胞によって迅速に細胞シートから排除する必要がありますが、どのように周囲の細胞がアポトーシスを起こした細胞を排除するかは詳しく明らかになっていませんでした。
今回の研究では、アポトーシス細胞に隣接した細胞では、アポトーシス細胞と接着した領域でカルシウムイオンが持続的に上昇する現象 (CaRE と命名) を見出し、この現象がアポトーシス細胞の効率的な排除に不可欠であることを明らかにしました。
九州大学 大学院医学研究院の池ノ内 順一 教授、システム生命学府 一貫制博士課程 5 年の長 佑磨 大学院生は、上皮細胞同士の機械的な連結にのみ関わっていると考えられてきたデスモゾームと呼ばれる細胞接着装置に、細胞内カルシウムイオン動態の制御に関わる、小胞体 IP3 受容体が集積していることを見出しました。また、アポトーシス細胞と隣接細胞の接着面において、デスモゾームを介したカルシウムイオンの持続的上昇 (CaRE) とそれによる接着面の収縮がアポトーシス細胞の排除に必須であることを見出しました。
本研究によって得られた知見は、アトピー性皮膚炎や炎症性腸疾患などの上皮バリアの破綻による病態の解明や慢性炎症の新たな予防法や治療法の開発に資する知見です。
本研究成果は、英国の科学雑誌「Current Biology」に 2024 年 9 月 23 日 (日本時間) に掲載されました (https://doi.org/10.1016/j.cub.2024.08.057)。
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