現代社会のインフラを支える通信や放送衛星、GPS 衛星は無数に存在しています。これらの多くは熱圏と呼ばれる上空 100〜1000 km の宇宙空間は、通信や測位に大きく影響するだけでなく、衛星の安全運用にも影響します。例えば、2022 年 2 月に起きた SpaceX 社の 40 機近い Starlink 衛星が落下した事故は、予想外の熱圏密度の急増が原因でした。このため、熱圏への理解や状態把握、モデリングは宇宙天気予測に必要不可欠です。しかし、直接観測が少ないため、我々の熱圏への理解はまだ乏しく、特にマルチスケールにおけるダイナミクスへの理解は極めて不明確でした。
九州大学 大学院理学研究院のリユウ・フイシン教授らの国際共同研究グループは、ドイツと ESA が運用する衛星を用いて、熱圏におけるエネルギーカスケード過程を支配する物理法則を世界で初めて発見しました。また、エネルギーのスケール間変換方向や変換率を明らかにしました。発見した法則は、2 次元乱流理論に予測されている海面や対流圏など気象領域での法則に類似していることから、大気組成やダイナミクスが異なる大気と宇宙領域は普遍的な物理法則に従うことを示唆しています。
今回の発見は熱圏を含む地球システムモデリングや宇宙天気予報の精度向上、高精度衛星軌道制御に役立つことが期待されます。
本研究成果は、2024 年 6 月 3 日午後 10 時 (日本時間) に米国科学雑誌「Geophysics Research Letters」のオンライン版に掲載されました (https://doi.org/10.1029/2024GL108367)。
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