磁石の中でねじれたスピンが波として伝搬するスピン波は、伝搬時に電流が流れないため、情報担体として利用することで、消費電力の低減が期待できるとともに、10 GHz を超える高周波領域でも動作するため、スピン波トランジスタやスピン波ロジック回路などへの応用が期待されています。更に、近接したナノ磁石を二次元周期的に配置させることでスピン波の伝搬を制御するマグノニック結晶や人工スピンアイスなどが知られており、これらの特性を活用した新しい脳型学習演算回路 (ニューロモルフィックチップ) の実現が期待されています。しかしながら、ナノ磁石間に働く相互作用が強くないため、変調効果やエネルギーの分裂幅が十分でないことが問題となっていました。
本研究では、従来、単一の強磁性層で構成されていたナノ磁石を、2 つの強磁性層と層間を分離する非磁性体からなる三層構造で構成し、極めて強力な磁気相互作用を実現することに成功しました。
九州大学 大学院理学研究院の Troy Dion 助教 (プロジェクト教員) と同 木村 崇 教授らの研究グループは、英国の Imperial College London と University College London のグループ及び米国の University of Delaware と University of Colorado Colorado Springs らと共同で、強磁性/非磁性/強磁性の三層構造で構成されたサブミクロンサイズのナノ磁石からなる人工スピンアイスを絶縁体基板上に作製し、それらの磁気特性を詳細に調べました。その結果、単一のナノ磁石は、各磁性層のスピンの向きや旋回方向に応じて 16 個の状態を構成できること、また、強磁性層間の強い磁気的相互作用により、6 GHz を超える強いスピン波モードの結合が生じることを実証しました。
本成果は、これまで二次元的に構成されてきた人工スピンアイスを三次元化することで、性能が大きく向上することを示した結果であり、より高性能な磁気情報デバイスやより高機能なスピン波脳型学習演算デバイスなどへの応用が期待できます。
本成果は、2024 年 05 月 14 日 (現地時間) に英国の科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました (https://doi.org/10.1038/s41467-024-48080-z)。
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