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矢原名誉教授が牧野富太郎のふるさと高知県でギボウシ属の5新種1新亜種を発見しました。--種の保存法による緊急指定種に指定しDNA判定で盗掘防止へ--

  • 2024年1月5日(金)

    ポイント

    • 園芸価値の高いギボウシ属植物の新種を発見し、環境省は緊急指定種に指定した
    • ゲノム情報を活用した最新技術で新種の系統関係を特定しDNA判定を可能にした
    • 本研究で用いた技術によりさらに多くの植物の新種が発見されると期待される

    概要

     ギボウシ属(キジカクシ科)は紫色や白色のかわいらしい花をつけ、園芸植物として広く利用されています。約25種の野生種のうち、16種は日本に生育しています。このギボウシ属において一挙に6つの新植物(5種1亜種)が発見されました。このうち2種類(1種1亜種)は自生地における個体数が限られているため、環境省により種の保存法にもとづく緊急指定種に指定されました。

     九州大学大学院理学研究院の矢原徹一名誉教授、高知県立牧野植物園藤井聖子氏、東北大学陶山佳久教授、大阪公立大学廣田峻助教、九州オープンユニバーシティ佐藤広行研究員らの研究チームは、ゲノム情報を活用した最先端の系統解析と注意深い形態・開花期の観察にもとづいて、高知県にギボウシ属の5新種1新亜種が生育していることを明らかにしました。

     ギボウシ属は園芸植物としての価値が高いため、新種が発表されれば、自生地から不法に採集されるおそれがあります。このため研究チームはMIG-seq法という最先端技術を用いて、個体の採集地を特定できるDNA情報を整備し、不法な採集・販売が行われた場合に、その行為を摘発できるようにしました。

     本研究成果は植物分類学の国際誌「Phytokeys」に2023年11月に発表されましたが、環境省による12月26日の緊急指定発表まで情報を伏せていました。

    高知県で発見された新亜種セトガワギボウシ
    環境省により緊急指定種に指定され採集が禁止された

    研究者からひとこと

    高知県は、NHKのドラマ「らんまん」の主人公のモデルである牧野富太郎のふるさとであり、古くから植物の調査が行われてきた地域です。この高知県で、いちどに6つの新植物が発見されたことは、高知県の植物の豊かさを物語っています。

    研究の背景と経緯

     国際社会は生物多様性条約の新目標(30by30:2030年までに陸海域の30%を保護する)の下で、保護区の新設・拡充や、既設の保護区における保全対策の強化に取り組んでいます。30by30目標を達成するうえで、新種(とくに絶滅危惧種)の自生地を特定し、その保全をはかることは、きわめて重要な課題です。九州大学大学院理学研究院の矢原徹一名誉教授らの研究グループは、環境省と連携をはかりながら、日本各地の保全上重要な地域の植物を調査し、ゲノム情報を活用した系統解析と注意深い形態観察により、保全対策をとるべき新植物の探索を行っています。本研究はこのような探索の成果です。

    研究の内容と成果

     研究チームは、陶山佳久東北大学教授が開発したMIG-seq法という方法を用いて、ゲノム(遺伝情報全体)の中の多数の配列の違いを調べました。これらの違いを利用してこれまでに知られているギボウシ属の種と、新たに発見された種の系統関係を詳細に比較し、5新種1新亜種の存在をつきとめました。

     今回発見された5新種1新亜種のうち4新種1新亜種はいずれも、吉野川源流域の狭い地域だけに分布しています。4新種1新亜種はいずれも近縁であり、また、吉野川源流域に隣接する蛇紋岩地に固有のシコクギボウシHosta shikokiana N. Fujita(1976年に発表された既知種)とも近縁です。この地域は地形が険しく、ギボウシ属が好む崖地が各地に発達しています。また、地質が多様なので、母岩の性質の違いを反映して、崖地の環境にも違いが見られます。このような地形や地質の多様性の下で、4新種1新亜種、およびシコクギボウシの進化が起きたと考えられます。

     ギボウシ属は園芸植物としての価値が高いため、新種が発表されれば、自生地から不法に採集されるおそれがあります。このため研究チームは発表前に環境省と連絡をとり、保全対策を検討しました。その結果、ミナヅキギボウシHosta minazukiflora Se. Fujii & YaharaとセトガワギボウシHosta takiminazukiflora Se. Fujii & Yahara subsp. grandis Se. Fujii & Yaharaについては、12月26日づけで種の保存法にもとづく緊急指定種に指定されることが環境省から発表されました。これら2つの種類については、令和5年12月28日から令和8年12月27日までの3年間、採集が禁止されます。

     他の種についても、発見された自生地の植物についてDNA配列の違いを特定しています。このため、土地管理者に許可を得ずに採集された新種が販売された場合、どの場所で採集されたかを特定できます。多くの自生地は国立公園・県立公園・国有林内などの保護地域内にあるため、無許可で採集して販売すれば、摘発できます。

    今後の展開

     研究チームは四国だけでなく、北海道・本州・九州・沖縄で野外調査を行い、これまでに約1万6千点の標本とDNA試料を採集しました。これらの標本は、九州大学総合研究博物館植物標本室(ハーバリウム)に保管されています。これらの標本・試料にもとづく研究から、ギボウシ属以外にも多くの植物のグループにおいて新種を発見しています。今後の研究を通じて、これらを論文として発表し、環境省と連携をはかりながら、保全対策に貢献していきます。

    参考図

    イメージ1
    図1 四国産ギボウシ属5新種1新亜種と既知種の系統関係
    MIG-seq解析という技術を用いて特定されたゲノム全体のDNA配列の多数の違いをもとに推定された高精度の系統樹。太字は5新種1新亜種(セトガワギボウシはタキミナヅキギボウシの亜種)。

    用語解説

    (※1) ゲノム
    DNA分子全体が持つ遺伝情報。生物種を特徴づける多くの遺伝子のDNA配列からなる。近縁種ほど配列が類似しており、このような配列の類似・違いをもとに、生物の系統関係を推定できる。
    (※2) MIG-seq
    ゲノム中のDNA配列の違いを効率よく検出する技術のひとつ。RAD-seqという海外で開発された技術に比べ、より簡便で、さまざまな材料に適用できる。

    謝辞

    本研究は環境研究総合推進費(【JPMEERF20204001, JPMEERF20234001】)の助成を受けたものです。

    論文情報

    掲載誌:Phytokeys
    タイトル:Molecular phylogeny and taxonomy of Hosta (Asparagaceae) on Shikoku Island, Japan, including five new species, one new subspecies, and two new status assignments
    著者名:Tetsukazu Yahara, Shun K. Hirota, Seiko Fujii, Yasushi Kokami, Kengo Fuse, Hiroyuki Sato, Shuichiro Tagane, Yoshihisa Suyama
    DOI: 10.3897/phytokeys.235.99140

    お問合せ先

    九州大学 理学研究院 名誉教授 矢原 徹一 (ヤハラ テツカズ)
    TEL:092-407-1700 FAX:092-407-1700
    Mail:yahara@kyudai.com