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高橋 教授、河添 助教、下川 紗貴子さん、釣本 敏樹 名誉教授らの研究グループが、染色体機能を支えるリング型タンパク質を DNA から外す仕組みを解明しました。

  • 2023年12月25日(月)

    ポイント

    • DNA 複製や修復を支えるタンパク質である PCNA は、リング構造をとって DNA に結合し、様々な反応が適切に動作するようにはたらきます。
    • 本研究では、脊椎動物において PCNA を DNA から外す反応 (アンローディング) を担う酵素とその制御を明らかにしました。
    • PCNA を適切なタイミングで外すことは、DNA を安定に維持するために必須です。本研究は、DNA 複製や DNA 修復など様々な反応が協調的に機能する機構の理解につながります。

    概要

     細胞が増殖し、正常に機能するためには、細胞の設計図である DNA を正しく複製、維持することが必要です。そのためには、DNA の正確な合成に加えて、損傷修復など複数の反応が適切に行われる必要があります。複製クランプ PCNA は、DNA を取り囲むように結合するリング型のタンパク質で、DNA 複製や修復など、様々な反応に関与する因子の足場として機能します。PCNA は、クランプローダー複合体と呼ばれる因子によって DNA に乗せられます。私たち真核生物には 4 種類のクランプローダー複合体が存在し、それぞれのクランプローダー複合体には機能分担があると考えられています。一方で、クランプローダー複合体を欠失させると PCNA を乗せる反応にも影響を与えてしまうことから、クランプローダー複合体の機能分担や制御機構はよく分かっていませんでした。また、 PCNA は DNA を取り囲むように安定に結合するので、不要な PCNA を取り外すことも染色体の安定維持に必要であることが分かっていますが、取り外しを担う因子やその制御については十分に理解されていませんでした。

     九州大学 大学院理学研究院の高橋 達郎 教授、河添 好孝 助教、英国 Dundee 大学の Julian Blow 教授、Peter Gillespie 上級研究員らの研究グループは、細胞内に近い生理的環境を試験管の中で再現できる、「ツメガエル卵抽出液」を用いて、PCNA を取り外す反応の制御メカニズムを明らかにしました。Atad5 は真核生物が持つ 4 種のクランプローダー複合体の一つを構成する因子です。本研究グループは、ツメガエル卵抽出液中の 4 種類のクランプローダー複合体を全て定量し、Atad5 を含む複合体が全体のわずか 3 % に相当することを発見しました。それにも関わらず、ツメガエル卵抽出液から抗体を用いて Atad5 を除去すると、PCNA の DNA からの解離が大きく遅延しました。このような遅延は、他のクランプローダー複合体を免疫除去した際には観察されませんでした。さらに、PCNA の DNA からの解離は、PCNA と相互作用するペプチド分子を加えるだけでも遅延しました。以上の結果は、Atad5 を含むクランプローダー複合体が、相互作用因子が結合していない、つまり他の因子が利用していない PCNA 分子を優先的に取り外していることを示唆しています。

     これらの発見は、PCNA を足場として利用する DNA 複製、修復など様々な反応がどのようにして制御されているのかを明らかにするものです。Atad5 を人為的に失わせた細胞では、ゲノムの安定性が下がることも知られており、本研究は、PCNA が適切に外されないことによって生じる様々な障害の解明にもつながることが期待されます。

     本研究成果は、米国の雑誌「Journal of Biological Chemistry」に現地時間 202 年 12 月 21 日 (木) に掲載されました (https://doi.org/10.1016/j.jbc.2023.105588)。

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