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川村 教授、吉田 尚起さん、川野 助教、望月 准教授らの研究グループが台風の遠隔降水の謎を紐解く新たなメカニズムを提唱しました。

  • 2023年6月6日(火)

    ポイント

    • 梅雨期の豪雨災害には台風の間接的な影響 (遠隔降水) を受けている事例が多数あります。減災・防災の観点から台風の遠隔降水のメカニズム解明が求められています。
    • 本研究で、台風が主因となって形成される水蒸気コンベアベルトが西日本の太平洋沿岸地域の局地的大雨をもたらす仕組み、また局地的大雨を発生させる多量の水蒸気の流入過程・湿潤空気塊の変質過程を明らかにしました。
    • 要因解明は、梅雨期の降水量の短期予測の精度向上に資する一方、水資源としても重要な梅雨の将来予測の不確実性を低減していく事にも繋がります。

    概要

     過去の梅雨期の豪雨災害を詳しく調査すると、台風が間接的な影響 (遠隔降水) を与えている事例が多々見つかります。しかしながら、台風の遠隔降水の力学・熱力学的プロセスはよくわかっていませんでした。本研究で、九州大学 大学院理学研究院の川村 隆一 教授、理学府 修士課程 2 年の吉田 尚起 大学院生 (研究当時) らの研究グループは、台風の遠隔影響の全容解明のために、領域気象モデルを用いて、理想化された梅雨期の背景場の下で疑似的な台風を埋め込む台風ボーガス実験を実施しました。数値実験結果から、はるか遠くの南シナ海から台風の東縁に沿って西日本へ多量の水蒸気を流入させる「水蒸気コンベアベルト」が四国・九州地方などの局地的大雨の発生に寄与していることを明らかにしました。また台風と台風が誘起する高気圧偏差との間で水平気圧傾度が強まるため、水蒸気コンベアベルトによる水蒸気の流入の強化のみならず、海面からの水蒸気供給を受けながら流入してくる大気境界層経由の別ルートも重要であることがわかりました。

     これらの知見は、顕著な水蒸気コンベアベルトを伴った台風は災害をもたらすような遠隔降水の発生ポテンシャルが高く、特に注意喚起が必要な台風であることを示唆しています。台風の遠隔降水の普遍的理解は、梅雨期の降水量の短期予測の精度向上に資することが期待される一方、台風の遠隔降水の定量的な評価を通して、水資源としても重要な梅雨の将来予測の不確実性を低減していく事にも繋がります。

     本研究成果は、2023 年 5 月 30 日 (火) に国際学術誌「Weather and Climate Extremes」にオンライン掲載 (早期公開) されました (https://doi.org/10.1016/j.wace.2023.100578)。また本研究は JSPS 科研費補助金 (JP19H05696, JP20H00289) の助成を受けました。

    ※ 本件についての詳細およびお問い合わせ先は以下をご覧ください。

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